やきもち2
雑談をしながらシュカの食事を見守った。全部完食してレティの用意した烏龍茶を一口飲み、看護師と話しているリックをちらりと見た。
そして小声でレティに言う。
「船長さん、かっこいいよね。顔とかもそうだけど、佇まいとかも。デキる男って感じ」
「うん。リック様はかっこいいよ……」
いつも惚れ惚れとさせる姿を想いながら、レティは頷く。
「モテそう。あんな人と一緒にいたら、好きになっちゃいそう」
「え?」
シュカの発言に、レティは目を丸くした。同時に、体の内側でジリジリと何かが燻る。
(あれ?今、何か……)
「彼女とかいるのかなぁ?レティちゃんは知ってる?」
「あっ、えっ……」
「仲良くなりたいなー」
「あ、あ、だっ、ダメっ!!」
膝の上で両手を握り、思わず叫んでいた。それから、はっとして我に返る。
「ご、ごめんね。仲良くがダメとかじゃなくて、そのっ、えとっ……」
上手い表現が見つからず焦り出したレティを見て、シュカが口元に手を当ててクスクス笑った。
「私こそごめん、レティちゃん。もうこの話は無しにしましょ。なんか困らせちゃうみたいだから。ふふっ」
「うん……。ごめんね」
「だから、いいって。私はレティちゃんと仲良くなるのが先」
レティは頷き、まだドキドキとする胸を掴んだ。少し騒いでいた様子に気がつき、リックが側に来た。
「ちょっと興奮してたようだな。どうかしたか?レティ」
頭を撫でられたのち、手櫛で髪を梳かれた。レティは頭を僅かに振る。
「いえ、大丈夫です……」
「そろそろ血圧と酸素を測りたいんで、いいですか?」
看護師が姿を見せたので、立ち上がる。
「じゃあ私、お片づけしてきます。シュカちゃん、また来るね」
「お休みなさい、レティちゃん」
「お休みなさい」
トレーを持ち、看護師と交代してベッドから離れる。リックは軽くレティの背に手を添え、一緒に歩いて医務室を出た。
すれ違うクルーと挨拶を交わしながら食堂に入って、ジャンにトレーを返した。
「おっ!完食だね。感心感心。新しいお嬢ちゃん、この中に嫌いなものとか無いみたいだった?」
「はい。すごく美味しいと言ってましたよ」
「そうかそうか、そりゃ良かった。お嬢ちゃんもお届け役ありがとな」
ジャンが太い腕を出したので、レティも手を上げて握手をした。
「また朝、来ます」
「おう!宜しく頼むよ」
後片付けと明日の準備が忙しいらしいジャンは、厨房へ戻って行った。
そこで、待っていたリックの元へレティが行き、食堂を出て通路を歩いた。
自然とリックがレティの手を拾い、繋いでくれる。
リックよりも気持ち遅めのレティは、彼の横顔を見上げる。そして立ち止まった。気づいたリックもすぐに止まる。
「どうした?レティ」
(もやもやとした気持ちが消えない)
リックの手を放し、代わりに袖を掴む。見上げてくるレティを、リックは優しい眼差しで見ている。
彼の風の力で、この言葉に表せない不安のようなものを吹き飛ばしてくれたら。そんなことを思わずにいられない。
何も言わず、レティはリックに身を寄せた。彼の服をぎゅっと握る。
「珍しいな。レティから抱きついて来るなんて」
自分から擦り寄るなんて恥ずかしいと思いながら、離れられなかった。
「ぎゅってして下さい、リック様……」
「ああ、いいぞ。いつもに増して今日は可愛いな」
鍛えられた腕が力強く、でも優しくレティを包む。彼のジャケットから日の光の匂いがして、少し安心した。
「俺の部屋へ行こう。ここじゃ他の目に触れる」
抱きしめが緩まり、そしてリックが言った。レティは離れず、静かに頷いた。




