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やきもち

夕食の時間の少し前に食堂に入ったら、約束通りシュカの食事がきちんと用意されていた。

シェフが大皿に山盛り乗せた今日のメニューをテーブルに置き回っている間、レティはジャンに礼を述べた。


「ありがとうございます」

「いいってことよ。女の子はデリケートだから。食事にも人一倍気を遣ってあげないとね。それは俺らシェフの仕事だよ」

「頼りにしてます。今度また、お野菜の皮剥きとかお手伝いしますね」

「本当かい?助かるよ、お嬢ちゃん」


そんなことを話していたらドアが開き、リックが入ってきた。


「リック様!」

「レティ」


深緑のジャケットを羽織ったリックが、レティの側まで来た。


「それはもしかして」

「はい。シュカちゃんのご飯です。今から持って行くところで……」


トレーに手を掛けたところで、ふとレティが何か思いついたように顔を上げた。


「私もシュカちゃんと食べようかなぁ。一人よりも誰かと一緒の方が、美味しいですよね」

「なら、レティがここでご飯を食べた後に、一緒に医務室に行くっていうのはどうだ?」

「でもそれだと冷めてしまいます」


困ったように言うと、リックが背後からレティの肩を通して腕を回し、抱きしめてきた。


「温め直せるさ。俺もレティと一緒に居たいってことだよ。分かってくれてもいいだろう?」


甘く低い声が耳の側で聞こえ、先程までの意思は簡単に揺らいでしまう。


「リック様……」


頬を染めてリックの腕に手を添えた時、別の声が割って入った。


「リック」


淡々とした声。視線をそちらに向けると、少し離れたところにディノスが立っていた。


「時と場を弁えろ」


ディノスの向けた視線の方へ目を向ければ、食事に集まってきたクルーがいつの間にかたくさんいた。

べったりとしたリックとレティを見て、視線を逸らしたり赤くなったりしている。


「思春期の若造かよ」


リックは興が削がれ、ため息をついた。レティを解放する。あまりにもたくさんの人に見られ、レティも赤くなってもじもじとしながら俯いてしまった。







折角の良いところを邪魔されたリックは食事の間、子どものように唇を尖らせていた。

レティが話しかけたら普通に会話してくれるのだが、明らかに拗ねていて焦ってしまった。

ディノスは落ち着き払い、子どもっぽいのもいい加減にしろと一度言い、それからは放ったらかし。ユーシュテも呆れたようで、珍しく何も言わなかった。

それが余計レティを落ち着かなくさせたのだが、こればかりはどうしようもない。ほとほと困り果てるばかりだった。

食事が済み、使用済みの食器を厨房へ返して二人で通路に出た時、リックがまたレティを抱きしめてくれた。医務室に持って行くトレーを落とさないように、後ろから手を回してきちんと片手で支えてくれる。


「すまない。気を遣わせたな」

「いえ……」


レティは緩く頭を振る。


「今日はちょっと緊張しましたけど……。私はリック様と一緒の時間が過ごせれば、それで幸せです」

「そうか。いつも素直で可愛いことを言うな」


両手が塞がっているレティを振り向かせて唇を奪うわけにもいかず、彼女を解放してせめてもの想いを込めて頬にキスをする。


「じゃあ医務室に行こう」

「はいっ」


頬をほんのり色付かせ、レティが頷く。それから二人で雑談をしながら歩き、すぐに医務室に入った。


「失礼します。シュカちゃんのお食事持って来ました」

「ああ、レティアーナさん。船長もご一緒で……お疲れ様です。助かります」


レティからトレーを受け取った看護師が、声をかけて閉められたカーテンを覗く。それから開けた。

シュカは起きていて、枕に寄りかかる形で座っていた。


「シュカちゃん、お腹空いたでしょう?」


すぐに駆け寄り、嬉しそうに話しかけた。シュカは淡く微笑む。


「大丈夫。レティちゃんに持って来てもらえるなんて嬉しい。ありがとう」


話している間に看護師が簡易テーブルを設置し、食事を置いた。


「わあっ!とっても美味しそう」

「ここの料理長さん直々に作ってもらったんです。すごく美味しいんですよ」

「すごい。本当に優しい人ばかり」


キャッキャッと弾んだ会話を聞きながら、リックは入口近くの壁に寄りかかって見守っていた。



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