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情熱と切なさ、不安とそれから……。8

「こんな風にか?」


リックの手が緩んだ服の中に入り込み、揉むように優しく掴まれた。

不意打ちのようなそれに、レティが驚いて反応した。


「それともこうか?」


触り方を変え、ビクッと細い体が揺れ、僅かに背中が上がる。その都度、翻弄された声が上がる。


「喘いでばかりいないで、言わないとわからないだろう?」


投げかけられる意地悪な質問。それなのに、体に触れる手はとてもとても優しくて。リックがどうしたいのかが掴めない。


「そんな、ことっ……言われても……っ」

「言われても、何?」

「言えません……!」

「なら、体に聞くしかないな。触られただけか?もしかしたらこんな風に、……されたんじゃないか?」


今まで胸を隠していたブラウスを横に開く。そして、直に温かい感触が伝わった。

舌が蛇のように蠢き、這いまわったと思ったら優しく甘噛みされる。服の上からとは比べ物にならない痺れが全身を襲う。


「セリオの前でも、その可愛い顔を見せたか?」

「見せっ、てませ……っ」

「そうでないと困るけどな」

「も、リッ、ク様っ、許し……」


足が動いて、スカートは限界すれすれまでめくれ上がってしまっている。先ほどから、中の水色の部分がチラチラとリックの目に見え隠れしていた。

肌から唇を離したら、透明な糸が繋がって途中でプツリと切れた。汚れた口元を袖で拭き、浅い呼吸を繰り返すレティに聞かせる。


「いいか、誰にも見せるんじゃない。淫らな顔も可愛い顔も声も、俺の前だけにしてくれ」

「はぁ……。はい……」


上気した顔で、必死にレティが頷いた。そんな彼女の太腿を掴んだ時、邪魔が入った。

プルルルル!プルルルル!!二人の動きが止まる。内線だ。

短く呼吸をしているレティは、リックと机を交互に見つめる。


「あの、リック様……。お電話が」


折角いいところだったのだから、無視を決めるか迷っていた。だが、急用ならここに誰かが来てしまう。

そうなればレティのあられもない姿を見られてしまうし、レティはレティで傷ついてしまうだろう。


「はぁー……」


がっくりため息をつき、ベッドから降りた。


「待っててな」


軽くレティの頭を撫で、机へ向かって受話器を上げた。


「はい」


向こうの主は、医務室の船医だった。


「ああ、そうか。目覚めたか」


その一言で、レティはすぐに起き上がった。ベッドの軋む音で、机に座っていたリックがこちらを向く。

緩んでいた下着がペロンとずり落ち、胸が露わになってしまった。

電話中だということで悲鳴を上げそうになる口を押さえて何とかやり過ごし、腕を寄せて体を隠す。

真っ赤な顔で慌てて着衣の乱れを整える姿を見て、リックは口に手を当ててクスクスと笑った。


「大事はなさそうなのか。何よりだな」


レティはベッドから降り、ワンピースを引き上げてファスナーを上げ、肩紐も結び直して靴を履いた。そしてリックのところへ来る。

片手でレティを抱き寄せ、髪に指を絡めて撫でてやった。

船医の話が終わり、受話器を置いた。

レティは何も言わないが、リックを見上げる。


「残念だな。久々にレティと触れ合えると思ったんだが。続き、しないのか?」


シトラスの香りの漂う髪に口付け、抱きしめて聞いた。ほんのり赤くなったレティが少し俯く。何だか可哀想な気もして、リックはこれ以上の誘いをかけるのをやめることにした。


「悪かった。困らせたな。レティが助けたあの子の様子を見に行こう」


顔が上がり、リックの顔を見てパッと輝いた。


「はいっ!」

「その代わり、今夜は待たないから覚悟しな?」

「!」


驚くレティにちょんと軽くキスを送る。湯気が出るのではないかと思わせるくらい、可憐な顔が赤くなった。

男の事情など知る由もないレティ。だがいくらレティを思いやって甘いリックだとしても、一度燃え上がった炎を消すのはそう簡単に行かないのだから。




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