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情熱と切なさ、不安とそれから……。7

『女性の胸が大きくなる方法の一つに、マッサージ……つまり揉むという方法があるという巷の噂です。女性の体とは不思議なものですね。それで成長するなら見てみたくないですか?』


そうレティに教えたのは……。


「セ、リオくんが……前に」

「!」


まさかの名前が出てきた。現在彼女に心奪われている、王子アレックス・クロスルース、他の船長ユリウス・バートレットよりも危険視すべき人物。

幼い容姿でレティを翻弄しつつ、何を考え抱えているかわからない態度。堂々とリックやユリウスの前でレティを誘惑する度胸も兼ね添えていて、なるべくなら近づけたくない。


「いつ聞いた?」

「ここの船で飲み会が開かれた日に、一緒にお風呂に入って……」


そして。思い出したレティの顔が赤くなる。あの時も今も似たようなことをされていて、深く考えていなかったが、自分はなんということをさせていたのだろう。

その反応から何が起こったのか察したリックの心が、ジリジリと嫌な感じに燻った。

掴まれていたレティの手首に、僅かに強く力が入る。

当時はセリオを子どもだと思っていたのだから、一緒に風呂に入ったのもそこで起こったことも話したことも、レティにとってはただの会話の一部だった。そうだと分かっても、聞かずにいられない。


「何をされた?」

「!」


藍色の綺麗な瞳の光が揺れた。頭を振って言わせないで欲しいと拒む。リックは顔を上げ、レティの頬に優しく触れながら妖しく笑む。


「触られたか?」

「ご、ごめんなさい」


真っ赤になり、レティが謝った。

自分の知らないところで何をされたと言っても事情が事情だし、だからと言って力で押さえつけるような乱暴な真似は出来ない。

まだレティの奥底に、眠り閉ざされている記憶の蓋をこじ開けるきっかけを作るつもりはないし、泣かせて苦しめるつもりもない。

それでも、少しの意地悪にリックの嫉妬と狂おしい程の愛情を込めてみても、許されるのではないか?


「大丈夫だ。怒ってない」


リックはレティの額に唇をつけた。


「でももう、触らせたらダメだ。他の奴がレティに触れたと思うだけで、嫉妬して狂いそうになる」


押さえつけられてない方の手がゆっくり上がり、リックへ向けられる。それを掴んで指を絡めた。


「リック様も……そういうお気持ちになるんですか?」


いつだって、そんな素振りは微塵も見せたことがないのに。


「なるさ。いつだってな」


繋いだ手をひっくり返し、レティの手に唇を押し当てた。

ならない方がおかしい。レティ本人にその気はなくても、リックと同じ目線で彼女を見ている者は多い。

この船の中にも。リックに遠慮をしてあからさまな態度に出す者は殆ど居ないが……。

故郷の島で彼女の周りにそういう男が居なかったのは、甘美な歌声を嫌う理由の他にもきっと、育ての親ジョアンが目を光らせていたからだろう。

彼にレティを預けてもらえて、自分は幸運だったと今になって思う。


「どういう風に触られた?レティ」

「え?どういうって……」


予想通り、意地悪な質問に戸惑い始めるレティ。



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