情熱と切なさ、不安とそれから……。6
「どうした?」
「や、やや、やっぱりダメです……」
「何で?」
髪を撫でながら耳にかけ、そこに口付けた。擽ったかったのか、レティが少し肩を竦める。
シーツを握りしめ、小さな声で答えた。
「だって、胸……小さい、から」
(そんなことか)
レティに気づかれないように小さく笑う。リックにとっては大した問題でなくても、本人にとってはコンプレックスなのだ。
「俺はそのままのレティが好きだぞ?全部可愛いし、全部愛しいと思う」
「……ありがとうございます。けど、少し恥ずかしいですね」
レティの白い頬に赤みが差した。それが益々可憐に見せて、心を擽ってくる。
先程身体をひっくり返したために、スカートが少し上がっている。細身の上半身とは違い、ふにふにと触り心地の良い程度の太さをしている。
そこに指をつけて、スッと上へ滑らせた。
「あ、ひゃあっ!」
ぴょこんと足と背が上がり、その後に横を向いた。
「何するんですかぁ」
「ちょっとした悪戯だな」
困った顔をしているレティの肩と足に手を添え、仰向けにした。
「悪戯しないで下さいー。擽ったかったです」
「じゃ、悪戯じゃないことをしよう」
ブラウスのボタンを三つ外し、現れた細い首筋にキスをして、片方の手首を押さえつけたその後に舌を這わせた。
ピクリと反応し、小さな声が上がる。
リックの手や唇ときめ細やかな肌が触れる度、声や体の跳ねに反応が出る。
「リッ……ク、様っ!やっぱり、は、……恥ずかし……っ」
頬を必要以上に赤くして唇に握った手を当て、目も強く閉じて羞恥に堪える姿。
愛おしいのはレティだからで、ただの本能的欲望を満たすためだけの今までの女性相手では、こんな気持ちにはならない。
「リック様と一緒の気持ちで居たいのに、とても恥ずかしくて。私、どうしたら……良いん……ですか?」
ギリ……。胸が痛いほど疼く。甘く焦げて燃えあがる。
(反則、……だろ)
ちょっとおっちょこちょいで、一生懸命で世間知らず。新しい世界に胸を躍らせる普段からは、想像もつかない程可憐でいて美しく放つ色香。
彼女の心を乱して翻弄させるつもりだった。なのに、逆に自分が掻き乱されているのではないかとリックは感じた。
少しの冷静さを取り戻すために息を吐き出し、レティの髪を優しく撫でて言う。
「その内、恥ずかしさなんて感じてる余裕がなくなる筈だ」
「……本当に?」
「ああ、本当だ」
絹のようなすべすべの肌を優しく指でなぞったり撫でたりしつつ、キスの雨を降らせて行く。
まだまだ受け止めることに精一杯のレティの服は、徐々に開かれて肌の露出が増えていく。胸の少し下までボタンを外し、ワンピースから裾を引っ張り抜いた。
細い腰に手を回して抱え、腰から背中に手を入れる。手が冷たく感じたのか、レティの体が何度か震えた。
背中沿いに下着にたどり着き、留め金を外して体を元のようにベッドへ沈める。そんな手間をかけるのは、胸の大きさにコンプレックスを感じている彼女のことだ。いきなりさらけ出すと、不安になるかもしれないと思うから。
緩まった下着を掴んで上にずらす。薄いブラウスの上から、柔らかな膨らみに手を当てた。
悲鳴のような声を上げ、細い肩が竦められた。
恥ずかしさからどうしても口に手が行ってしまうので、リックは声を邪魔する手首を押さえつける。
「レティ……」
リックからの刺激に戸惑って顔を上げるが、体を侵食する甘い毒のような痺れには敵わない。
体が震える度に、手や足が動く。そのせいで、シーツが擦れる音に混ざる甘い吐息と声が耳から脳を突いた。
服の上から触れられるのは布の摩擦が混じって不思議な感覚なのに、どこかもどかしくて。
それなのに突然、スルリと手が入り込んで直に肌へ触れた。
「こうやって刺激を受けたら、胸が大きくなるって噂があるそうだぞ?知ってたか?」
リックが問いかけたら、潤みかけた藍色の目が開いた。
その話は何処かで聞き覚えがあった。




