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情熱と切なさ、不安とそれから……。2

大浴場に行き、入り口の前で待っておこうと思った。それなのに運が悪い。

リックが行った時は既に遅く、ドアに下げられている使用中の札はひっくり返っており、誰もいないことがわかる。


(またすれ違いか)


焦りとイラつきから、額に手を当ててため息をついた。


「何してる?」


背後から声がかかる。振り返ったら、ディノスが歩いてきていた。


「レティを見なかったか?」

「いや」

「そうか。……はぁ」


落ち着きないリックの様子を見て、ディノスはポケットに手を突っ込み、足を止めた。


「なぁ、ディノス。……その、レティから何か聞いてないか?」

「何をだ?」

「それはえーと、俺のことで」

「お前、レティアーナに何をしたんだ」

「何て言ってた!!?」


思わずディノスの腕を掴んでしまい、それが強かったらしく僅かにディノスが眉間を動かした。


「落ち着け。俺は何も聞いてない。ただ、酷く思い詰めてた様子だったから気にはなってた。俺が居たら言いにくそうだったから、席を外した。お前自身は心当たりないのか?」

「ついさっき、理由がわかったところだ」


リックはポケットからブロマイドを取り出し、ディノスに見せた。


「……。」


冷静なディノスは大きく顔色を変えはしないが、眼前にヘドロでも置かれたような目付きになった。


「それはお前が悪い。自業自得だ。同情の余地なしだな。」

「ちょ・っ・と・待・て!」


自分に背を向けて去ろうとしたディノスの肩を掴んだ。


「話は最後まで聞け。俺のじゃないっての!!俺の部屋にあったのは事実だが、誓って違う」

「……本当だろうな?レティアーナが来る前、水商売の店でお前が気に入ってたのは、そんな感じの女じゃなかったか?」

「お前、そういう店に絶対来ないくせに何で知ってるんだ!?……どうでもいいけど昔は昔、今は今だ。今はレティにしか興味ない。だから誤解されたままだと困るんだよ」


必死なリックの表情を見て、それから天井に目を移す。何かを考えていたのか、しばらくしてため息をついてディノスは目を合わせてくれた。


「彼女のことだから、恐らく落ち込みはしても腹を立ててはいないはずだ。それにレティアーナのことなら、今はこの船でお前が一番分かっているだろう。少し考えれば居場所は分かるんじゃないか?」


少し口元を緩め、ディノスがリックの肩を二度叩いた。


「大丈夫だ。なるようになる。もしレティアーナを見かけたら、お前が探していたと伝えておこう」

「頼む」


リックに頷いて見せ、ディノスは離れた。その後、考えを巡らせる。

慌てて気配を追わなくても、考えてみればいい。

レティが今行きそうなところ。浴場から自室に一番近いこの通路で会わなかったということは、風呂の道具を持ったまま何処かへ寄ったということだ。


(ああ。もしかして)


思いあたりがあり、リックは足を進めた。

部屋に帰るよりも、先に行きたいところがあるとしたら。


「また後で伺います。宜しくお願いします」


近くまで来たら、澄んだ声が聞こえた。


「大丈夫だよ。彼女のことは、我々が診ているから」

「はい。失礼します」


ドアが開き、可憐な横姿が現れた。まだ湿り気を含んだアプリコットブラウンの髪は、肩に掛けられたタオルに掛かっている。

白いブラウスに藍の瞳とお揃いの色のワンピース。ベージュのカーディガン。抱えているのは小さなポーチ。


(やっぱりそうか)


レティは自分が助けた相手のことが気になって、医務室にいたのだ。


「レティ」


ドアが閉められるのを確認し、声をかけた。呼びかけに対して反射的に振り向いた。


「リック様……」

「やっと見つけた」


恋しかったリックに会えて嬉しいはずなのに、少しそれが見えたと思ったら伏し目がちになってフイと視線が逸らされた。



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