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情熱と切なさ、不安とそれから……。

拾った患者が医務室に運ばれ、栄養と休養を取ればしばらくして良くなるだろうと船医から容体を聞いた。

それから自室に戻り、様子のおかしかったレティを思い浮かべた。


(何があった?)


腰に下げていた剣を壁にかけ、考えながら歩く。机の前を通った時、通りすがりの風がいたずらして紙がひらりと前に滑った。


「?」


何気無く拾い上げて、僅かに厚みのあるそれを裏返した。


「なっ……!!」


(何だこれは!!?)


驚愕して固まった。水着姿のグラマラスな女性。それがグラビアアイドルのブロマイドであることは、誰かに確かめるまでもない。

リックの机は元々白いので、今まで同化して気がつかなかったのだ。


(まさか……)


持っている写真が震えた。今までのレティの行動の理由が一気に見えてきた。

部屋で待つリックの元へいつまでも戻らなかったこと、船内をいくら探しても逢えなかったこと。

海岸から帰る時には一言も話さず、助けた彼女のことだけを見ていた。

心配だからだと思っていた。だが、それだけじゃないだろう。

それなのに、切羽詰まった声と仕草でしがみついてきたそのことも。


(これ、俺のだと思われてんのか?)


リックの部屋にあったのだから、勿論そう思うのが自然だ。


(んでもって、もしかしなくても避けられてる?)


頭に岩が落ちてきたように重くなった。


(確かに男っていうのは普通にこういうものを持ってるし、今は持ってないとしても、俺も嫌いだとか興味ないと言えば嘘になる。レティはそんなこと知らないに間違いないし、恐らく痛烈な一撃に……)


人騒がせな落し物をした張本人を探し出してやりたいが、それよりも優先すべきことがある。


(レティ!誤解だ!)


リックはブロマイドをシャツのポケットに入れ、慌てて部屋を飛び出した。階段を上がって、一番近くの通路の手前の部屋。そこがレティの部屋だ。


「レティ!レティ、いるか!?」


戸を叩きながら声をかけたが返事がない。


「開けるぞ」


ドアノブに手を掛けた時、鍵がかかっていることに気がついた。

リックの船では度々飲み会が開かれているが、酔っ払ったクルーが部屋を間違えたり仲間の部屋に入り込んで寝てしまうことがある。

万が一、一人部屋のレティの所に入ったりしないように、鍵をつけさせたのは自分だった。レティは部屋から出る時と夜寝るときは鍵をかけている。


(ちきしょー。普段の身の安全が仇に……)


その時、隣の部屋が空いて、クルーが顔を出した。レティと一緒に寝具カバーを変えていた、幼い顔をしたフィルだ。


「船長?レティアーナさんなら、大浴場に行ったと思いますよ。そのうち帰ってくると思いますけど」

「……そうか」


濡れて帰ってきたから、風邪を引かないように温まりに行ったのだろう。


「良かったら、こっちの部屋で待ちますか?」

「いや、時間を空けてまた来るから大丈夫だ。ありがとう」


親切なクルーに礼を言い、リックはレティの部屋から離れた。


(早く誤解を解かないと……)


リックの頭の中のレティが怯えたような目つきをして唇に手を当て、明らかに引いている。勿論、目は合わない。


『リック様、不潔です。そんな方だとは……思いませんでした』


(それだけは避けたい!レティに嫌われて生きた心地なんかするものか)


歩きの歩幅が大きくなり、速さが増し、いつの間にか走っていた。



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