疑惑の写真10
「レティアーナちゃん、どうした?」
「あそこ、砂浜に誰か倒れてるように見えませんか!?」
「え!?」
レティから双眼鏡を受け取ったクルーが、細い指の示す方向を見る。
「本当だ!女の子が倒れてる!」
「助けましょう!」
「けど、まず船長か副船長に連絡して、許可を取ってから船を寄せないと……。海上と違って島だから、迂闊に近寄ると保安官に見つかる恐れが」
「その間に通り過ぎてしまいます!お願いです、甲板に降ろしていただけませんか?」
レティはクルーの腕を両手で掴んで懇願した。
「そ、そしたらお前は船長に連絡してくれ。俺は下に降りる!」
「分かった」
ここへ連れてきてくれた彼が、レティの腰に腕を回し、綱に掴まって下に滑り降りる。
甲板に降り、レティは一番先端まで走った。
「レティアーナちゃん!待って!」
後ろからクルーが走ってきて、レティの手首を掴んで引き止める。
「そんなに時間はかからない!船長を待って」
「いいえ!待てません!」
振り返った藍の瞳はいつものような優しくふんわりした光を捨て、意思を曲げさせない強い輝きを秘めていた。驚いたクルーがレティの手を放してしまい、その隙にするりと抜けて行く。
着ていたカーディガンを脱いで畳んで床に置き、縁に手をついて登った。水玉模様のワンピースが風に煽られる。
島の方を向き、そのまま飛び降りた。バシャンという水の音が聞こえ、クルーは我に返る。
「レティアーナちゃん!!」
縁に手をついて下を見るが、水面の青にレティの影すら見えなかった。
このまま彼女が上がって来なかったら。そんな恐ろしい考えが脳裏をよぎり、冷や汗を流した。
机に置いてある内線の音に気づき、読み終わった本を書庫に戻していたリックは部屋に戻った。
「はい」
『船長!実は今側にある島の海岸に人が倒れてて、レティアーナちゃんが助けたいと……』
「レティが?」
『はい。景色を見たいってことで見張り台に上げたんですが、そのことに気づいて今は甲板に降りました』
「分かった。俺も外に出よう。航海士を呼んできてくれ」
受話器を戻し、急ぎ足で部屋を出た。が、階段を上がったところでバタバタと忙しない足音がして、一人のクルーがリックの前に飛び出してきた。
「!」
衝突しないように足を止めたら、相手がリックの腕を掴み、切羽詰まった様子で訴えてきた。
「船長!レティアーナちゃんが、海に飛び込みました!!」
「何!?」
「海岸の人を助けるのに船長の判断を待つように言ったんですが、聞かずに海に入ってしまって。それから姿が確認できません!」
(レティ……!!!)
水に入ったはいいものの、上手く水面に上がれずに沈むレティが頭に浮かぶ。
(準備運動もせず、ましてや服のまま飛び込むなんて無茶だ)
「とりあえず外に出るぞ!」
リックが走り出し、クルーが後に続いた。
(鳳凰では水に入らせることができない)
「入ってから、どれくらい経つ?」
「おおよそ三分くらいかと」
(俺が海に入って、あと僅かの間に見つけられるか?)
ドアを開けて外に出た時、船から僅かに離れた水面から金色の光の柱が上がった。
「レティ!!」
船縁から身を乗り出してクルーと二人で水面を見たら、何かの影が素早く動いて光へ向かっていた。




