疑惑の写真8
「ええ?」
レティの涙が止まった。
「一回はしたんじゃないの?あのリチャードの誕生日の夜」
「え、えっ……。あの時は……」
思い出して、首から顔、耳までも真っ赤になる。
リックの甘く低い声と指に弄ばれて、今まで経験したことのない感覚と痛みを知った。知らない自分がそこにいて、こんな私は何なんだろうと思った。
「何で知って……?」
「あの日のリチャードの顔見てたら分かるわよ。まあ、とにかくそれからしたの?」
「んーん」
小さな声で答え、頭を振った。
「じゃあ、しょうがないわよ。リチャードだって男だもの。欲求不満を写真で晴らしたんじゃないの?レティ、貴女には見られたくない所があるの。見栄っ張りなのよ。知られて幻滅されるかもしれないことは、隠すわ。貴女の知ってる彼って、どんな印象?」
「強くて、優しくて、約束は必ず守ってくれるし……。側にいて、褒めてくれて、頭撫でてもらって、色んなことを教えてくれる。毎日お話もしてくれるし、カッコいい……」
知ってる彼を思い返し、ドキドキして手を胸に当てた。体が少し熱くなった。
「やっぱりね。レティが相手の良いところに目を向けてるのもあるけど、リチャードの嫌なところは見えてないでしょ」
「リック様にもあるの?嫌なところ」
「嫌なところというより、人間らしくできないことや失敗したりすることがあるのよ。あたしの中のリチャードは、口悪いし子どもっぽいわ。セリオが来た時もそうだけど、突っかかったらすぐに乗るでしょ?ムキになるし」
確かにユーシュテやセリオとは、すぐにケンカ口調で言い合いしてると思った。アルに対してもそういうところがあるが、リックがいなされてしまっているので長続きしていない。
「あたしは知ってるわ。ディノスの良い面も悪い面も。それでも好きなの。だから、写真のこともリチャードの『人らしさ』だと思って、許してあげなさいよ」
「私、リック様に怒ってないよ。許すとか許せないとかない。ただ、自分が嫌なの」
「それよ、それ!」
小さい指の先がレティに向く。
「今の自分を認めちゃいなさいよ!無い物をあーだこうだ言ってたってしょうがないでしょ!背伸びしないで、等身大の貴女でいいの。卑屈になるんじゃなくて、今の自分で輝かせられるところを伸ばしなさいよ、ね?」
首を傾げ、ユーシュテが笑いかける。
「あたし、貴女の歌、大好きよ。レティ」
藍色の瞳がうるうると波を溜めた。ヒクッと声を出し、レティはユーシュテに縋った。
「うわぁああん!ユースちゃーん!!」
「ぐえっ!苦しい!潰さないでっっ!」
両手で掴まれて、ユーシュテはバタバタと両手両足を暴れさせる。
それもそのうち諦め、レティの前髪をポンポンと叩いてやって泣き止むのを待つことにした。




