疑惑の写真7
「あたしはどの子が可愛いか見たんだけどね。ディノスはあたしがいるからそれでいいみたい」
「ユースちゃんはいいなぁー」
レティは頬杖を崩し、テーブルに手を伸ばしてその上に頭を寝かせた。ユーシュテは食べかけていた二個目のマドレーヌを置き、手をパンパン叩いて屑を落とした。その後皿から降りてレティの側にいく。
「いいじゃない。所詮は写真の中の女で、会うことも関わることもないのよ?」
「でも、今の私じゃリック様に会えないよ……。だって私、胸、そんなに……大きくない、し……」
話しながら声がどんどん小さくなり、最後の方は聞き取りにくいほどだった。
「またそのことで引っかかってんの?前解決したでしょ」
テーブルの上で軽く握られたレティの手の甲に、ユーシュテが座って足を組む。
「今のレティのサイズも、可愛いだとか何とか言ってたじゃない。リチャード」
「リック様、優しいから。私が傷つかないようにそう言ったんだよ」
「へーえ。そういう解釈か」
(リチャードは、おっぱいと付き合ってるわけじゃないと思うんだけど)
心の中で思ったことは、口に出さなかった。
「まあ、確かにレティが来る前に水商売の店の近くでリチャードが連れてたのは、だいたいそんな女だったわ」
「水商売?」
「男の欲求を満たす所ー」
「!!」
(ガ――ン!!!)
レティは衝撃を受けた。欲求を満たす行為が何を示すかしっかり理解はできていなかったが、とにかく自分にとってあまり印象の良くないことだというのは分かった。
「だからあたし、リチャードがこの船にレティを連れて来た時に驚いたのよねー」
全く正反対の雰囲気を持っていたから。歌が並外れて上手いとしても、彼が夢中になるタイプだとは思わなかった。
「やだやだやだー!こんな私嫌いだもんー!!うぇえええん!」
腕を曲げて伏せ、足をバタバタさせながらレティは子どものように泣き出した。
(言い過ぎたか)
ユーシュテは上を向いてため息をついた。そして閃く。
「そうだ」
片手を皿のようにして、そこに拳をついた。
「あんた、嫉妬したらおっぱいデカくなれるんじゃない!またやんなさいよ」
「無理だよぉ。どうやってそうなったかわかんないもん」
「はいはい。わかったから」
ユーシュテは、小さな手でレティの腕を宥めるように叩いた。
(もー。面倒くさくなってきた……。初めて付き合って日が浅いってこんなもんなのかしら。リチャードも面倒なことしてくれたわね。もっとデリカシーがあるかと思ってたけど)
「ねぇ、レティ」
「何?」
グズグズと泣きながらレティは顔を上げた。手で涙を拭くが、後から後から溢れて止まらない。
「ちゃんと、リチャードとしてる?」
「リック様と?何を?」
「えっち」
「ブーッ!!」
声を潜めることもなく普通に聞くので、たまたま食堂にいたクルーが飲み物を吹いた。




