海に旅立ちの歌が響く6
「大丈夫だ。マスターは呼んである」
レティはリックの肩に手を着いて体を起こした。
港に養父が微笑んで立っていた。しかし、ジョアンの背後にあるやたら大きな船……。
「リック様!あれがリック様の船ですか!?」
「そうだ」
ジョアンの側まで来たので、レティを降ろした。此方を見上げる視線に合わせる。
「俺はリチャード・ローレンス。この海賊船の船長をしている」
「リック様は海賊様でいらしたのですか?」
「ああ」
驚きのあまり海賊にまで『様』をつけるレティに、落ち着いて頷く。
「俺が何者であるかなどどうでもいいだろう?俺の女になりたくて、俺に着いていきたい、それだけでいいんじゃないのか?」
「へええっ?」
レティは変な声を出した。
「確かに私はリック様が大好きですけれど、でもそんな、愛人様とかそう言う立場なんて滅相もないです……」
「……」
流石にリックは頭を抱えたくなった。
昨日大好きと言われたのが、そう言う解釈でなくてどうなるというのだ。
(鈍感な上に天然か。)
ため息をついた。二人のやり取りを聞いていたジョアンは、レティの肩に手を添えた。
「四の五の言ってリックさんを待たせてないで、行きなさい」
そう言ってリックの方へ押し出した。
「おじ様……!?」
「レティがいなくなるのは寂しいよ。けど、俺のためじゃなく、自分のために時間を使いなさい。行きたいんだろう?」
レティは踵を返してジョアンに抱きついた。鼻の奥がツンとして、涙が溢れ出す。
「おじ様、ごめんなさい」
「なーに、謝ることはない。リックさんから話は聞いてるから。レティはレティのやりたいことをやって、幸せになっておくれ。それが俺の幸せだよ」
ジョアンの乾燥気味の手が、レティの頭を撫でる。
「愛してるよ、レティ。俺のところに来てくれてありがとう。リックさんに限ってないとは思うけど、俺はここにいるから。もしも万が一にでも戻ってきたくなったら、その時はいつでも戻っておいで」
「はい」
「さあ、行っておいで」
ジョアンは自分からレティを離した。




