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疑惑の写真6

「痴話ゲンカでしょ。今度は何をリチャードに隠してんの?」


レティが立ち上がって肩からカウンターに降り、ユーシュテは腰に手を当てて言った。


「それ、は……」

「何も言わないで分かってもらおうって言っても、流石にリチャードもそこまで読み取りは出来ないわよ。はっきり言えばいいじゃない。縮こまってちゃ、船長の女なんか務まらないって言ったでしょ?」

「ごめ、なさ……」


更にしょげてしまうレティ。両手を握りしめて俯いてしまった。責めているつもりは無かったのだが……。


「謝って欲しいわけじゃないのよ」

「ユース」


見兼ねたディノスが来て、人差し指でユーシュテの頭を撫でた。


「リックから聞いたが、レティアーナはここに来る前の島で、ずっと自分の感情を外に出せない環境にいた。自分でも気づかず、押し殺す癖がついてる。だから自分の意思をはっきり出せと言われても、すぐには無理だ。どうしていいか分からないというのが本音だろう。時間をかけて慣らして行くしかない」

「ディノス様……」


ディノスの手がレティの頭にも乗った。


「焦らなくていい。ゆっくりで。ユースもいる。俺が居たら話しにくそうだから、先に戻ってるぞ。リックは引き止めておくから、二人で話すといい」

「ありがとうございます」


淡々とした話し方だが、確かに優しさが伝わってきた。


「ユース、レティアーナを頼むぞ」

「分かってる」


ディノスの手がレティとユーシュテから離れる。そのまま食堂を出て行った。


「元気のない時、女の子には甘いものだよ。これ」


ジャンが白い皿にレース調の紙ナプキンを敷き、マドレーヌを五つ載せたものをカウンターに出してくれた。


「あったしのマッドレーヌぅー」


ユーシュテが皿に飛び込み、一つを腕に抱えてそのままかぶり付いて食べ始めた。それを見て、レティはクスッと笑った。

皿を持ってテーブルに置き、りんごジュースを二つ用意して椅子に腰を下ろした。

レティはジュースを一口飲み、マドレーヌをパクパク平らげるユーシュテを、頬杖をついて見ていた。


「ねぇ。例えばだけど……」

「あに(何)?」


モゴモゴしながら、ユーシュテがレティを見る。


「ディノス様が、自分の――ユースちゃん以外の全然知らない女の人の写真、持ってたらどうする?」


口の中のものを一度飲み込んで、ユーシュテは聞き返した。


「それ、どんな?」

「自分よりもスタイルのいい人」

「何だ。元カノの写真じゃないなら、あたし気にならない」

「え!?」


レティは藍色の瞳を丸くした。


「男って、そういう生き物だって思ってるから。成る程ね。リチャードの部屋で、グラビアアイドルの写真か何か見つけたってわけ?」

「グラビア?」

「知らないの?ボンキュッボンな胸デカ尻デカな女の子が、その部分を強調して撮ったブロマイド――つまり写真や雑誌を売ってるわけ」

「そうなの?男の人なら皆持ってるの?」


リックだけでなく、あのディノスもジャンもユリウスもセリオもアルも。


「皆ってわけじゃないけど、好きな人の方が多いわ。最近は人によってそれが人間の女だけじゃなく、漫画の女だったりするみたいだけど。因みにディノスは興味なさそう」

「ディノス様は、その方がイメージに合ってるかも」

「でしょ?この船って男ばっかりだから、たまに写真落とす奴がいるのよ。この間風呂場に忘れられてたの持って帰ってディノスに見せたら、嫌そうな顔してたし」


ユーシュテは顔真似をしながら話し、その場面を思い出したのかケラケラ笑った。




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