疑惑の写真5
声を掛けるかどうか迷いに迷って決意を固め、ドアを控えめにノックした。
「はい」
中から静かな声がする。
(ディノス様、いらっしゃるんだ……)
「あの、失礼します」
両手でドアノブを下げ、ゆっくりとドアを開く。机の前に立っていた彼がこちらを向いた。
「レティアーナ?」
「ユースちゃん、いますか?」
「はぁいー?」
ドールハウスから、ユーシュテがひょっこり出てきた。純白のエプロンの下、今日のワンピースは水色だ。彼女の小さな家の前に行き、膝に手をついて前屈みになった。
ふわふわの髪が、肩から前に零れ落ちる。
「何?」
「えっと……」
「ん?」
呼び出した割には用件をはっきり言わないので、ユーシュテは首を傾げてしまった。
気の利くディノスが側に来て、肩に手を置いた。
「食堂に行かないか?話があるなら、何か飲みながらすればいい。時間的にもちょうどいいだろう」
時は三時半。レティは頷き、両手を伸ばして皿のようにした。そこにユーシュテが飛び乗って、肩まで導いてやった。
ディノスが先に出て、レティは静かにドアを閉めて後を追う。少し離れて歩いてくれるディノスの気遣いに感謝した。
ユーシュテがレティを覗き込む。
「大丈夫なの?よく見たら、ちょっと顔色が悪い気がするけど」
「うん。具合が悪いとかはないから平気」
食堂に入ったら、食材の入った木箱を抱えて厨房に入るところだったジャンが気がついてくれた。
「おおー、お嬢ちゃんたち。おやつあるよ!ブルーベリーのマドレーヌ食べるかい?」
「食べるぅー!」
ユーシュテが立ち上がって両手を組み合わせ、レティの肩でピョンピョン跳ねた。
ドリンクコーナーでグラスにアイスコーヒーを注ぎ、ミルクを入れていたディノスがふと手を止め、顔を上げた。
「リックが来るぞ、レティアーナ」
「えっ……!?」
軽く握った手を唇に当て、レティが青ざめて狼狽え始めた。それを見たユーシュテが、怪訝な顔をする。
「どうかした?リチャードよ?」
「ダメ……。今は」
「え?」
(だって、普通に話せない)
「お嬢ちゃん、こっち」
冷蔵庫に先ほどの物を詰めながら話を聞いていたジャンが、カウンターに肘をついて身を少し乗り出し、手招きする。
「こっち側に身を潜めてな。もしかしたら気づかれるかもしれないけど、とりあえず」
レティは走り、カウンターの裏にしゃがみ込んだ。
その後、ジャンは何事もなかったように食材の整理の続きを始め、ディノスはグラスを持って入口の方へ歩き出した。
その後、ディノスの予言通りにリックが入ってきて、やり取りがあったというわけだ。
この船の中、広さを利用して鉢合わせないように行動していたが、そういえばリックは気配でおおよその位置を読み取れるということを忘れていた。
厨房の音があるというのに膝を抱えて息を潜め、胸が嫌な感じに暴れて頭痛すら覚えた。
「……」
ユーシュテは膝を抱えた腕に伏せるレティの肩に、何も言わずに座っていてくれた。
ディノスの説得でリックが去り、そしてレティはようやく出ることができたのだ。そんなに時間は経っていなかったが緊張で足が痺れ、四つん這い状態でカウンターから出てきたというわけだ。




