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疑惑の写真3

「レティ」


戻ってきたらしく、リックが立っていた。


「ここにいたんだな」


何も知らない彼は普段通りに歩いてきて、ジャケットをソファの背にかけるとレティの側に来る。愛おしさを込めて、髪を撫でてくれた。


「少し話すか?」


先程まで望んでいた誘いが来た。それなのに、嬉しくない。


「私、シーツを変えさせて頂いてて……」

「そうみたいだな。ありがとう」

「だから、その……置いてきますね」


急いで床のものを拾い、抱えてリックから離れた。


「そうか。じゃあ待ってる」


レティは返事をせずに、パタパタと小さな足音をさせてリックの部屋から出て行った。通路を走る。


(声、震えてなかったかな。ちゃんといつもみたいに笑顔、出せてたかな)


走りはいつか歩みに変わり、速度を落としていた。


(リック様に会えない。何を話していいかわからない……)


吐き出す息が震える。鼻の奥がツンと痛み、視界がぼやける。

誰にどれだけ嫌われたって、涙を止めることはできた。でも、今回は大好きなリックのことだから。抑えが効かない。


「……ふ、えぇ」


抱えた布で顔を隠してすすり泣きながら、洗濯所へ向かって歩いて行ったのだった。








一通り最終ノルマの仕事を終えたフィルは、カート引いて片付けに行っていた。洗濯所に入ろうとして立ち止まる。

中にはレティがいて、使用済みのシーツを洗濯機に入れている。


(レティアーナさん……!?)


ふと窺えるようになった一瞬の横顔。透明な雫が頬を転げ落ちている。

先程までの元気な表情とは一変。思いつめたような悩み苦しむ俯いた顔。

掛ける言葉が見つからなかった。


「よっ!何立ち止まってんだ?」


通りがかった同室のクルー、グレスが肩を叩いて来て、驚いて声を出しそうになった。


「何見てんだ?」


(しまった!)


彼を止めそびれてしまった。


「何だよ、あれ……!泣いてんのか?」


中へ入ろうとする腕を強く掴んで引く。壁にその体を押し付けた。

身長差があるため、レティと同じような幼い顔立ちのフィルは下から睨んで威圧した。


「デリカシーのないことをするんじゃない。いいか、このことは他言するな!」


声を潜めていたというのに、有無を言わせない強さがあった。


「わ、わかった……」


グレスが頷いたので、ため息をついて解放する。

それからカートは壁に寄せて、二人は静かにその場を去った。






リックは思ったより遅いレティの帰りを待つ間、机に置いていた本を取ってソファで読んでいた。

あまり注意を払わなかったため、本の下敷きになっていた写真の存在には気づいていなかった。

壁掛け時計が静かに時を刻み、時折肩を回したり首を左右に傾げたりしながらページをめくっていた。そして、喉の渇きに気がついてコーヒーが飲みたいと思った時、ふと時計を見てから驚いた。


(一時間半も経ってる?)


自分はレティを待つと言ったし、彼女にもそれは聞こえていたはずだ。

レティが、二人の時間を何よりも楽しみにしているのは分かっている。リックも同じ気持ちだし、だからできるだけ時間を作っているのだが。

それなのに、断りもなしに戻ってこないとは。


(さては厄介ごとに巻き込まれたか?)


聞き分けも人も良く、困っていたり頼まれたりしたら断れないことは良く知っている。

嫌々やっているわけではなく、人からあまり受け入れられなかった環境と正反対の今が、レティにとってただ嬉しいだけだ。

リックは本にブックマークを掛け、閉じてソファの前のテーブルに置いた。


(迎えに行くか)


腰を上げてジャケットを取り、袖に通さずに羽織って部屋を出て行った。

すぐに見つかると思ったのだが。



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