疑惑の写真2
この船に連れてきてもらった最初の頃は毎日一緒に寝て、今でもたまに入らせてもらうことがある幅が広いベッド。
丁寧にカバーを外し、付け替えて行く。几帳面なディノスの部屋でそうするように、シワが残らないよう叩いたり伸ばしたりした。
(リック様……)
この部屋は大好きだ。仕事が終わってベッドの前に立ったまま、部屋や水中が見える円窓の外を眺める。
忙しい彼はその中でもレティのことをいつだって気にかけてくれていて、時間を作ってこの部屋へ誘ってくれる。
(今日はいつお話できるかな?)
朝、起こすのにドアの外から声をかけられて、そして食堂で朝昼少し話したきりだ。
早く会いたい。少しでも多くリックといたい。そんな甘酸っぱいことを考えながら、使用済みのシーツ類を拾い上げた。
クン!突如それが突っ張った。気づかないうちに踏んづけていたらしい。バランスを失って、体が揺れた。そのまま二、三歩よろけ、レティは床に広がる布の上に勢い良く転げた。
「きゃあーっ!」
布は薄く、クッションにはならなかったのでバタッというわかりやすい音がした。
「あ、いたたた。またやっちゃった……」
起き上がり、そしてシーツを破いていないか確認したら大丈夫だった。安堵した彼女の前に、リックの机の下に落ちている何かが目についた。
ハガキよりも少し小さめのサイズの白い何か。
「机から落ちたのかな?」
立ち上がってそれを拾い、そのまま机に置いた。それからシーツ類を拾い直して出て行こうとしたら、通りすがりの風が当たったらしい。またヒラリと先程の紙が舞って床に滑った。
「押さえ、しておかなくちゃ」
手荷物をまた床に置き、それを拾おうとして止まった。先ほどのは裏側だったようだ。今回は部屋の電気に反射して、表面がピカッと光った。
(え……?)
拾おうとする動きが止まる。細い指先には、腕を頭の後ろに上げ、カットの深い水着を着ている女の人が写っていた。勿論知らない人。
水着をはちきらんばかりのボリュームのある胸と間の谷間。それなのに腰の括れはきちんとあって、少し開いた足は太くはないが適度に肉付きがいい形をしていた。
束ねている髪のせいで見える細いうなじ。そして彼女の艶やかなピンクの唇は、こちらに向かって投げキスでもしているように見える。
(どうしよう……)
リックの部屋に、まさかこんなものがあるなんて思わなかった。彼が持っていることも。
そして事故とはいえ、レティの目に触れるべきではなかったものであることも分かる。
震える手でそれを拾い、机に戻す。二度と落ちないように、置いてあった本で重しをした。
胸が重く苦しく、でも激しく鳴り響いている。
リックは以前言ってくれた。自分の胸の大きさを気にするレティに、『俺は、レティが持っているものなら何でも好きだ』と。
嘘ではないだろう。現に、彼はレティを愛して可愛がってくれている。だけどもし、あの言葉が自分に遠慮をした、優しさから出たものだったとしたら。
『リチャードを信じてあげて』
(わかってる。リック様は優しいから。優しいって信じてるから。だからこそ……)
言えないことがあるのかもしれない。
そう思ったとき、不意に部屋のドアが開いた。




