疑惑の写真
真っ直ぐに信じ切るが為に、
些細な揺らぎが大きくなる
手の届く距離にいても遠く感じるキミ。
どうすれば分かり合える?
分からない。焦れる心、ただ過ぎる時間……。
揺らめくラピスラズリの瞳は何を思う?
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「ない……!」
雷に打たれたような顔をした無骨な男が一人。
「ないっ!ないないないないぃっっっ!」
床を這いつくばり、ベッドの下まで覗き込むので流石に声がかかった。
「何探してるんだ」
洗って取り込んだばかりの洗濯物を自分の引き出しに収納していた同室が手を止め、尋ねる。
「俺の癒しだ!」
「だから、それは何?」
「このくらいのやつ!」
男は焦っていて、状況説明が上手くできないらしい。両手の親指と人差し指を広げて四角い空間を作り、探し物のサイズを表した。
「確かに毎日、ポケットに入れて持ち歩いてたはずなんだ!なのに何で!?限定プレミアのカトリーナちゃん!!」
四つん這いの姿勢のまま、男はガックリと頭を垂れた。汗か涙が分からないが、床をポタポタと雫が濡らす。
「あれがなきゃ、俺死んじゃう。死ぬしかない」
「大袈裟な……」
ルームメイトは呆れてため息をついた。この失せ物が、後に様々なトラブルの引き金となることはまだ誰も知らない。
「だいぶ変え終わりましたね」
レティは、大きなカートを引いたクルーと仲良く並んで歩いていた。
大きな深緑のカートの底に、畳まれた少しの布がある。大きなのはシーツや布団カバーで、小さいのが枕カバーだ。
今日は寝具のカバーを変える日なのだ。それでいつも下ろしているレティのふわふわの髪は、適当に捻じり束ねてプレゼントのバレッタで留まっている。
「いつも手伝ってもらって助かります。結構時間と労力がかかるんで、一人でも多くの手助けがあった方がありがたいんです」
少し幼げな顔立ちをしたクルー、イフィルスは笑った。レティは緩く頭を振る。
「いいえ。私、敵の方と戦えなくて、いつもフィルさんや皆さんに代わりにして頂いてますから。こういういうことで、せめてお手伝いさせて頂きたいんです」
「船長がそれでも良いって思ってるんだから、気にしなくていいと思うんですよ。でも、レティアーナさんは優しいなぁ」
「そんなことないですよ」
レティも笑い、二人の間にほわんとした和やかな空気が漂う。少し歩いて、奥の部屋の手前でカートは止まった。
「あとは、この通路の部屋と船長の部屋です。レティアーナさんの部屋もありますね」
「私、自分の部屋は後からしますから、物だけベッドに置いて頂ければ。あと、リック様のお部屋は私がしてもいいですか?」
「勿論。そう言うと思いました。大好きな船長のですもんね」
「や、やだ……」
はっきり言われ、レティは赤くなってもじもじとした。フィルはそんな彼女に一式を手渡す。
「じゃあ、宜しくお願いします。それが終わったら、レティアーナさんはもういいですよ」
「はい」
彼と別れ、レティは奥の階段を下りた。
(リック様がいらっしゃったらお話できるかも)
そんな淡い期待もあったのだが、ノックをしても返事が返ってこない。
ドアを開けなくても、リックが中にいれば訪ねて来たのがレティだと分かって返事があるはずだ。
そこで不在だとわかり、レティはドアを開けて中に入った。




