嵐が去ってまた11
「さて、やっと落ち着けるってとこかしら?」
「そうだな」
ユーシュテがディノスの肩の上に座ったまま、手と足を伸ばす。そんな様子を微笑ましく見ながら、ディノスは答えた。
「あなた方は、これからどうなされるのですか?」
チェルシアが尋ねた。
「俺たちもここを出ようと思ってる。仲間を待たせてるんでな」
「まあ、そうですの。賑やかだったのが一気に寂しくなりますわね。では」
手が差し出される。リックはそれを握った。
「改めまして、今回はお世話になりました。兄様と私だけでは、このように早く解決できなかったかもしれません」
「俺たちは、仲間を取り戻しただけだ」
「だとしてもです。例え目指す先が同じだけだったとしても、助けになったのには違いありませんから。ありがとうございました」
手を離し、スカートを少し持ち上げてチェルシアが礼をした。
「良い旅を」
「ああ……」
頷いた時、その場の空気を破るような声が聞こえた。
「キャプテ――ンっっ!!!」
「ん?」
辺りに響き渡る大声。その方へ顔を向けたら、仲間が数人走ってくる。一人は何かを掴んでいて、その手を上に上げている。
「大変ですっっ!!見てください、これっ!!キャプ……」
リックの周りに気がついた一人が、叫ぶ仲間の頭を引っ叩いた。それで、言い直す。
「リチャードさん!!」
「煩いわよ!恥ずかしい!」
ゼイゼイと息をしながら膝に手をつくクルーたちに向け、ユーシュテが目を尖らせて指を突きつけた。
「と、とにかく……っ、これ!」
リックは差し出された紙を受け取った。レティとディノスが隣に立って、覗き込む。
それは号外のような新聞記事。リックは目を見開いた。
「何だこれは!!!」
【アリオナ王国に楽園の女神現る!!!】
そう見出しのついた記事の全面の写真に、妖精のような羽根を付け、宙に浮かぶレティの姿があった。
リックと協力して、崩れる塔から落ちる人々を拾っているシーン。
どこからかカモメがたくさん飛んできて、町中に紙がバラバラと散らばる。外に出ていた人々が、その紙を拾ったり掴んだりしてざわつき始める。
「何事ですの!?」
チェルシアは一変した空気に驚いている。
そのうち、カメラを持ったりメモを持ったチームが出始めた。
「いたぞ!あそこだ!!」
レティに気がつき、指を差す。
「リック!」
「リチャード!」
ディノスとユーシュテに頷く。リックはレティの腕を引いた。そして抱き上げる。
「きゃっ!リック様!?」
「ここは一旦退くぞ、レティ!」
「あ!でもっ!」
レティはリックに抱かれたまま、手を伸ばす。
「チェルシア様、どうかお元気で!今回はありがとうございました!あと、あと、カナラス様にも宜しくお伝えください」
「ええ。貴女も道中気をつけて」
慌ただしく握手を交わす。二人の手が離れたのを確認し、リック達は走り出した。
「お前たち、こっちだ!」
「え――!また走るんすか――!?」
「質問攻めにされたければ、そこに残ってろ!但し、自分たちで記者を完全に蒔いてから戻ってこい!」
「そりゃないっすよ、ディノスさん!」
ディノスに追い立てられ、息を整えたばかりのクルーがフラフラと立ち上がる。ひーひー言いながら、リック達の後をついてくる。
「大体せんち……リチャードさん達は足速いんすよぉお!」
「つべこべ言うな!」
泣き言を言っているクルーにディノスが喝を入れる。
「レティ、しっかり掴まってろ」
「はいっ!」
リックに言われ、肩に置いていただけだった手を更に伸ばし、手と手を繋ぎ合わせて体を寄せた。
元々速いリックの走るスピードが更に上がった。
(速すぎて……、リック様と空を駆けているみたい)




