嵐が去ってまた9
「はい。リック様にも心配されてしまうので、無理はしません」
「ねえ?」
コレットはにっこりして、囁く為に口元へ手を添える。
「今の生活が合わないんだったら、私についてこない?アレックスも、そうしてくれたら喜ぶと思うの。まだ貴女のこと、想ってそうだもの。可愛いお姫様で私の義娘にならない?ね、レティアーナ。いいでしょう?」
「ええっ?」
「ちょっ!母さん、やめてくれっ!!」
レティは驚いた。アルが慌てて駆けつけて二人の間に手を入れ、母をレティから離した。
「恥ずかしいから!」
「冗談よ」
おかしそうにコレットは笑った。
(この母子は全く……)
リックは溜息を噛み殺し、心で呆れの言葉を吐いた。
国王がコレットの横に立った。
「コレット、この者達を知っているのか?」
「アレックスの友人ですわ、兄様。リックとレティアーナです」
間近で見る国王にレティは焦る。慌てて頭を下げた。
「こんにちは!初めまして、王様」
「お初にお目にかかります。お会いできて光栄です、国王陛下」
リックは落ち着いて地面に膝をつき、頭を垂れた。
レティもそうするべきかと思ったが、コレットが両肩に手を置いてくれ、「貴女はそのままで大丈夫よ」と助け舟を出してくれた。
「堅苦しくしなくても良い。面を上げよ。立ってくれ。今回は何やら、チェルシアと甥のアレックスが世話になったようだな。此方から礼を言わせて欲しい。ありがとう」
「勿体なきお言葉でございます」
リックは答え、それから立ち上がった。
(リック様、すごいなぁ……)
国王とも礼儀よく言葉を交わせる姿を見て、レティは感心する。更にまた、リックがレティの中で輝いて映った。
「これからも二人と仲良くしてやってくれ」
「はい。その所存です」
リックの答えに、国王が満足げに頷いた。そして彼の元に一人の兵士がやってきて何やら耳打ちをする。
「コレット、アレックス。折り返しの準備が出来たようだぞ」
「あら、まあ……。早いこと。そうしましたら兄さん」
「うむ。元気でな」
「ええ、兄さんも。お体に気をつけてください。チェルシア、貴女もね」
「はい、叔母様」
コレットは国王とチェルシア、両方と一度ずつ抱き合った
「シア、元気で」
「兄様!便りを書きます」
「ああ、わかったよ。返事は必ず」
チェルシアがアルに抱きつき、アルは背中をポンポンと叩く。そして国王に向き合う。
「陛下、失礼します。体にお気をつけてお過ごしください」
「また来るがよい。用事がなくてもな」
「はい」
いつもの軽い会話をするすると交わすアルとは違う一面。レティは感心した。
(やはりアル様は王子様でいらっしゃいます)
国王から離れ、最後にアルはリック達のところに来た。
「じゃあ、皆元気で」
「アル様も」
「レティアーナ」
アルは一度マントを払い、そしてその端を手に持った。
国王の前で変なことはしないだろうと、リックは油断していた。
レティを人目から隠すマント。前に立つアルのアメシスト色の瞳は誘惑するような、酷く妖艶な輝きを放っている。
素早くレティの頬をアルが包み、屈み込んだ。
唇にアルの親指が撫でながら触れ、そして二人は最も近づいた。藍色の瞳が大きく見開かれる。
「まあ」
コレットがうふふと笑った。




