嵐が去ってまた7
「陛下からだ」
滑るように文面に目を走らせ、そしてアルは呆れというか嫌そうというか、そういった表情になった。そして溜息。
「アレックス兄様?」
「アル様……。大丈夫ですか?」
チェルシアとレティが心配そうに声を掛けたので、アルは説明した。
「早く帰って来いって。何かカルロ兄さんが、また色々トラブル起こしてるって。今日の夕方にここの港に着くように、船を出したらしい。俺はお目付役でも、トラブルの仲裁役でも無いんだけどなぁ……」
肩をガックリ落としたアルの姿をレティは気の毒に思ったが、リックは声を上げて笑った。
「笑い事じゃないよ、リック」
「すまんすまん。だが、手紙の内容が容易に想像出来るぞ」
軽く謝ったが、リックはまだ笑っている。アルは姿勢を戻し、片手を腰に当てた。
「まったく……。でもサルディは、母さんの所に早く戻れるから嬉しいかな?」
「滅相もございません、殿下」
「そうは言っても、母さんを置いてきたままなのも気がかりでしょ?今回の護衛が、母さんから頼まれたものだとしてもさ」
「それはまあ、そうですが……」
「仕方ないな。強制送還されてあげるか」
諦めたようだ。
「まあ、兄様。折角久し振りにお会いして、これからゆっくり出来るはずのところでしたのに」
つまらないと呟き、チェルシアは唇を尖らせる。
「ごめんごめん。陛下も忙しいんだ。また来るよ。シアも遊びにおいで」
アルはチェルシアの肩を叩き、そして頭を撫でた。
それからレティの前に立つ。愛しげに髪を撫で、それから頬に触れる。
「寂しがらないでね、レティアーナ。 もし明日までに心変わりしたら、遠慮なく俺についてきてよ」
アメシスト色の瞳が魅惑の光を含め、レティはドキリとしてしまい戸惑う。
「え!?」
「心変わりしねーっつーの。離れろ」
リックが手を伸ばし、アルの頭を掴んでレティから引き離した。
「いつまでもそういうネタで、レティに構うな」
「ネタって失礼だな!俺は超絶真……むぐぐ」
リックはアルの唇を掴み、喋れないようにした。
「あのバカ……」
ユーシュテの呟きが聞こえ、レティは振り返る。
「ユースちゃん?」
「アレックスは今、盲目なんだろう」
ディノスがユーシュテに声を潜めて言った。
「アル様、目がお見えで無いんですか?」
「一部ね」
ため息交じりにユーシュテが答えた。
「それは……。大丈夫なのでしょうか?お城に帰ってお医者様に診て頂ければ治りますでしょうか?」
「治らないわよ。バカと一緒でつける薬はないの」
「えっ……」
心配そうな顔が、ますます重くなる。
「いつも明るくされているから気づきませんでした。そんなお体だったなんて」
「は?」
ユーシュテが変な顔をする。そこでディノスが冷静に説明した。
「レティアーナ。体調や病のことではないから大丈夫だ。目が見えないというのは表現で、つまり周りの状況が掴めていないということだ」
「あ、そうなんですか?」
「レティ、貴女病気だと思ったの?」
「だってぇ。目が見えないって言うから、てっきり」
「言葉そのまま捉えすぎよ。レティらしいと言えばそうだけど」
突っ込まれ、僅かに顔を赤くしながら、レティはあーだこうだと言っているリック達を見た。
その後周りを見てみるが、サルディはチェルシアの横についたままで、彼女も手を揃えて立っていて変な様子もない。
ますます首を傾げてしまうレティだった。
それから口ゲンカも疲れた頃を見計らい、カフェに移動して雑談したり海岸に行ったりしているうちに、あっという間に夕方になってしまった。




