表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラグナロクの翼 ―あの蒼い空と海の彼方―  作者: Mayu
秘められた力の章
317/451

嵐が去ってまた6

「カナラス様、皆様、如何ですか?」

「……折角だから、頂きましょう」


カナラスは体を起こし、林檎を手に取った。


「楽しむことは罪じゃない……か」


呟いて一口噛む。甘酸っぱい味と香りが広がった。カナラスの口から、無意識に溜め息が漏れた。


(美味しい。そんな感情すら、ずっと忘れていた気がする)


「そのお兄さんは、うんとうんと歳を取ってそれから妹さんにお会いになる時に、お土産話を沢山持っていかないとですね」

「今度夢でその兄に会ったら、そう伝えておきます。金色の乙女、貴女がそう言っていたと」

「はい。是非」


笑うレティの横顔を見て、愛おしく感じたリックが左手で林檎を食べながら横に立ち、空いた手で髪を撫でた。レティが見上げ、藍色の瞳にリックが映る。そして嬉しそうにまた笑った。


「この林檎、とても美味しいですわ」

「でもその後にオレンジ食べたらちょっと酸っぱいよ、シア」


いち早くオレンジに手をつけたアルが、強く感じた酸味に顔を少し顰めていた。チェルシアが頬に片手を当て、しまったという仕草をした。


「あ、そうですわね。順番を逆にした方が良かったかしら?」

「かもな。でも今更だね」


全員が笑い出し、病室に明るい空気が流れた。







賑やかな雰囲気がひと段落した頃、レティ達は病室を後にした。

カナラスはケガで入院して、安静を言い渡されている。入る前にも用件は手短に済ませるように言われていたし、これ以上カナラスに負担をかけるようなこともできなかったからだ。


「ではカナラス様、お大事になさってくださいね」

「はい」


真顔に戻ってしまったカナラスに対し、レティはにっこりと微笑んで最後に戸口で待つリックとアルの元へ行こうとした。カナラスは迷い、布団を握った。そして口を開く。


「金色の乙女」

「はい」


足を止めてレティが振り返る。何かを言おうとして躊躇っているのを、急かさずに両手を揃えて待っている。


「その、――ありがとう」


藍色の瞳が見開かれ、そして嬉しそうに煌めいた。


「はいっ」


大きく頷きながらにこっと笑って、そして出て行った。


「リック様、アル様。お待たせしましたっ」

「良かったな、レティ」

「はい」


リックがレティの手を取ったら、反対側をアルも同じように繋いだ。


「レティアーナはやっぱり温かいよ」

「手、暑いですか?」

「えー、そういう解釈になっちゃう?違うでしょー」

「違うんですか?」


両側から面白そうにクスクスと笑われて、レティは二人を交互に見ながら首を傾げて歩いた。

外に出た時、今まで気持ち離れたところから見守っていたサルディが近くに来た。


「アレックス殿下」


節くれだった両手で丁寧に封筒を差し出す。


「つい今しがた、ポストシーガルが来ましたの。兄様宛のふみのようですわ」


チェルシアが、自分の肩に留まった人馴れしているカモメを撫でる。

そのカモメの足首に、紋章が刺繍されたバンドが付いている。

レティから手を離し、アルは白い封筒を受け取った。開けて中身を取り出す。サルディは後ろに数歩下がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ