嵐が去ってまた3
「だとしても、レティアーナは怖いだろ?全く君は冷静さを失ったら危ない。彼女を預けておけないよ」
「あの……」
「レティに手を出さなきゃ、こうなることもなかったろうが」
「えとっ」
リックとアルを交互に見ながら止めようとするも、小さな声は全く二人の耳に入らない。そして更に。
「こうなったら俺が守るしかないと思うんだよ」
アルはレティの頬にスッと唇を近づけた。
「えっ?え!?」
戸惑うレティの頭からユーシュテが飛び降り、腕を駆け下りる。繋がった手にたどり着き……。ガブッ!
「わ!いったぁ――っっっ!」
容赦なく牙を向いてユーシュテがアルの指に噛みつき、驚いてレティの手を放してしまう。レティもアルと同じく驚き、リックは喜んだ。
「ナイスだ!ユーシュテ」
「ユースちゃん!」
「ユース!」
成り行きを見守り、そろそろ止めようと歩いてきていたディノスが駆けつけてくる。
「ごめんごめんごめん!降参だから!」
「こら!やめないか、ユース!」
手を振り回してもユーシュテは離れず、ディノスがアルの手首を掴み、ユーシュテを引き離す。
「人の女に堂々と手を出すからよ。海賊にケンカ売った時点で、ただで済むと思わないこと!それにあんたたち、好き勝手言って、間に挟まれてたレティが困ってたのが分からないの!?このたわけ共!!」
ディノスの手の上で腰に手を当て、ユーシュテがぷりぷりと怒った。
「レティ」
「レティアーナ」
リックとアルがレティを見たら、騒ぎが大きくなりかけたせいで、おろおろして狼狽えている。哀れに思った。
「悪かった。レティ」
リックはすぐにレティを抱きしめて謝罪した。
「ごめん!レティアーナ。大丈夫?」
「はい」
事態が落ち着き、レティは安堵の息を吐いた。気を取り直しアルは尋ねた。
「ところで君たち、どこに行くつもりだったの?」
「ああ、それはレティアーナたっての希望で――」
ディノスの答えを聞き、目を見開いた。
「えっ!?本気?」
「はい。アル様もご一緒されますか?」
「レティアーナが行くなら、心配だからついて行きたいけど……」
アルは、少し離れたところに控えていた護身のサルディをちらりと見た。
「殿下がお行きになられるなら、自分は従うまでです」
止められるかと思ったが、胸に手を当てて同意を得られた。
「ですが殿下。恐れながら、王女殿下にお断りされなくて宜しいのでしょうか?中に入るにも、もしかしたら許可がいるかもしれません」
「ああ、そっか……」
助言を受け、確かにそうかもしれないとアルは二度頷いた。
「じゃあ、君たちは先に行っててよ。俺はチェルシアを連れてくるから、入り口で待ってて」
手を振り、アルはサルディを連れて走って行った。
「大所帯になりそうね……」
「ああ」
ユーシュテの呟きに、リックが頷く。反対にレティは嬉しそうだ。
「人数が多い方が賑やかです。楽しい雰囲気も作りやすくなりますよ」
「それもそうか」
相変わらずの素直な捉え方。リックは表情を緩め、レティの頭をポンポンと叩いた。




