悪魔に憑かれた王子7
「それに、そんなことをしてはここの国の国王様が、後から責められてしまいます」
リックにだって、海賊が世界的犯罪集団であることは重々承知だ。けれど、夢と自由を追う効率からこの立場を選んだだけであり、民間人から何かを奪うような悪賊のような振る舞いはしていない。そうだとしても、正義の味方でもないのだ。
愛するレティに困った顔はさせたくない。おまけに、この国はリックの立場を知っても友人と言ってくれるアルとつながりのある場所だ。
(どうする……)
攻撃をよけながら考えていたら、ここにいるはずのない声が割って入った。
「その心配には及びませんわ!」
非常口なのか、外から入るためのドアがバン!という激しい音ともに前に倒れ、そこに誰かが立っている。
「サルディ!シア!」
アルが驚きの声を上げた。無理もない。彼の護衛としてついてきた従者は、塔の下でこの国の王女チェルシアを護衛するように命を受けていたはずだ。
それなのに、そのサルディはチェルシアを抱いて立っているのだから。
「ありがとう、サルディ。下ろして頂戴」
「御意」
サルディは丁寧に王女を床に下ろした。その間も、飛び交う電撃が王女に近づいたら剣の鞘で払い、守っている。
「スピーカーからアレックスお兄様のご様子がおかしいと感じましたので、急ぎ兵を集めました」
アルにここへ来た説明をしてからチェルシアは姿勢を正し、命を出した。
「アリオナ王国第一王女、チェルシア・ドワール・クロスルースの名におき、命じます。我が国民を脅かす研究の疑いの調査のため、この研究室及び関係者を聴取して下さい」
サルディとチェルシアが横に引き、兵がなだれ込んできた。
「アレックスお兄様。下の部屋に閉じ込められていた女性は、兵が今助け出していると思います。衰弱していますが、私の世話をしていた女官も見つかりました」
それを聞いて、レティはリックとアルをそれぞれ見つめた。
「良かったです」
「そうだな」
「レティアーナも彼女たちも無事で良かったよ」
二人は頷いてくれた。
「リック様」
レティは片手を開いてリックに向けた。その細い指にリックが手を重ねて絡めてくれる。
「私は、戦えないし怖がりだけど、リック様といると……、いえ、お側にいると勇気が湧いてくるんです。リック様と一緒に頑張りたいって、思えてくるんです」
「俺もだ。レティが居てくれるからこそ、出来ることが増える」
「お揃いで嬉しいです。胸がとても温かいです」
にっこりレティは微笑んだ。藍色の瞳を閉じたら、華奢な体に金色の波が走った。背中にふわりと羽根が現れ、アプリコットブラウンの髪が揺れた。
それからリックと手を離し、今度は両手を上に向ける。上からは覗き込む海蛇と、その向こうに空を舞う鳳凰が見えた。
「鳳凰様、海蛇様、お力を貸していただけますか?」
四つの鋭い目がレティの藍色の瞳と合わさる。海蛇はシューシューと、鳳凰は空に高い鳴き声を響かせた。二匹が了承したと分かり、両手の指を組み合わせ、空へ向けた。
(そのお力を、リック様とアル様へ……)




