悪魔に憑かれた王子5
「鳳凰様」
レティは、空の上から下を見ている鳳凰に気がついた。
鳳凰もそうだが、大きさからして屋上の穴から海蛇が入り込むのは難なようだ。
「レティアーナ」
アルは先に蛇の頭から降り、手を上に差し伸べてレティを支えながら降ろした。
「リック!ディノス!」
下の部屋は埃が舞い上がっており、視界が濁って見えにくい。アルは二人を呼び、レティも穴から仲間を探した。
(リック様)
すると、鳳凰が少し羽ばたき、部屋の濁りを払ってくれた。
ディノスと思われる後ろ姿の横にいるユーシュテが上を仰ぎ見て、レティと目が合った。
「レティ!」
「ユースちゃん!」
ユーシュテの声で、ディノスとその前に立つ剣を構える人物が振り返る。
長いロングの黒髪を揺らし、凛々しい顔の美人な女性。グレーの瞳の色が、凄く懐かしさを呼び起こす。
(リック様がもし女性でいらしたなら、きっとあんな風な……)
レティの横顔から、見慣れない容姿の人物が誰なのか考えているとわかったアルが少し笑う。
「レティアーナ、あれは……」
「レティ!」
聞き覚えのある大好きな声が自分を呼ぶ。綺麗な黒髪の彼女が、此方に両手を広げていた。
「リ、リック様……!?」
「レティ」
もう一度、名前を呼ばれて確信を得た。レティの態勢が前のめりになり、アルが慌てて手を伸ばす。
「危ない!レティアーナ!」
けれど寸でのところで間に合わず、レティは下に落っこちてしまった。
「あっ!」
声を上げて落下したその体を、リックが受け止める。
「本当に、リック様でいらっしゃるのですね……?」
「そうだ。まあ……。この格好は色々あってな」
「リック様……っ!」
ギュッと抱きついたレティは、彼の向こうで起こっていることに気がついた。此方に向けられた銃口。
察知したディノスも鋭い声を上げる。
「リック!前だ!」
「金色の乙女……。返しはしません!」
まだ外されていないレティの枷が光った。
「ああっ!いや……っ!あうぅっ!」
「レティ!」
リックにしがみついたまま、力を吸い上げられる。正面に立つカナラスの銃口に光が溜まった。
(リック様や皆が危ない!)
「死ね!海賊ども!」
太い電撃が放たれる。
(防がなきゃ!皆を守る……!)
パアアッ!淡い光の波がレティを通る。その波が床に流れ、金色の壁を作った。
バリバリ!ズガン!壁に当たった電撃は方向性を失って細い光になり、稲妻のように八方へ散る。
衝撃が止む頃、目を開けたらレティの壁の少し前に水の壁があった。
「防げて良かった。全く驚かせないでよ」
全員何事もなかったのを確認したアルが息を吐き、下に飛び降りてひらりと着地した。
「アル様」
「それと、早く外してなかったのがいけなかった。ごめん、レティアーナ」
アルはレティの手を取り、枷を一つずつ握り、少し煙を立たせて破壊した。
焼けるような音の直後に、二つに割れた枷がガラガラと落ちていく。
「どうやって外したんだ?」
「うん、まぁ……。アレだよ。蛇だけに、溶解液みたいなの使えないかなと思って。イメージしてやってみたらできた、みたいな?」
手足綺麗に外して、アルは腰に手を当ててリックに答えた。
「そんな、バカな!鍵なしに外したなんて……」
「俺、自分で言うのもなんだけど器用なんだよね。その点につけては、君に運がなかったってことかな」
焦るカナラスの前で、アルは人差し指を揺らしながらニッコリと言った。
「さて。君の部下は戦意が無い。こっちは多勢だけど、まだやる?このことはいずれ王国にも知られるだろうし、大人しく引いておいた方が君のためじゃないのかい?俺たちは守るものがあるから、向かってくるなら容赦しないけど」
アルもリックと同じように剣を抜き、手に持つ。ユーシュテはスカートを上げて短剣を、ディノスは彼女の背中に手を回し、その逆の手に銃を持った。




