潜入作戦10
「剣程度の武器なら完全に防げるようですね。どうです?金色の乙女の力は。美しく、そして強大だ」
至近距離に迫る眼鏡が白く光り、顔が悪どく笑みを浮かべている。
これ以上押し込んでも、無理矢理レティの力を使われるだけだ。リックは舌打ちをして、カナラスから離れた。
(鳳凰の力を使えばレティが苦しむと思ったが、剣でも同じか。力を使う隙を与える間も無く倒すか、アルがレティを助け出してから倒すかどちらかだな。できれば、前者に持って行きたいが)
「ふざけんな。人の力を振りかざして、得意気になってるんじゃねぇ。ここは国から、民のためになる研究を命じられてるんじゃなかったのか。それが影で人を誘拐し、苦しめてるとはいかれた研究所だな」
「おや。我々は国から、次世代のエネルギーの研究と言われているだけです。それが見つかれば、結果的に民の為にはなるのでしょうが。たまたま現在注目しているのが、人の力に秘められたエネルギーというだけで、国の命には背いていると思いませんが」
「研究がどうとかの前に、誘拐自体が犯罪だろうが!」
「海賊のような犯罪組織が、犯罪行為を声高に叫びますか」
「何とでも言え!仲間が奪われて黙ってられるか」
カナラスはシールドを引っ込め、代わりに銃を再び出して引き金を何度も弾いた。先程の太いレーザービームのような電撃ではなく、電撃の玉が多数撃たれた。
動体視力でそれを避けながら、鳳凰が周りの研究者やディノス達に当たらないように風で道筋を反らした。
風が切れた頃、ディノスはリックのずっと後ろから銃を放つ。
キンキンキン!再びシールドで銃弾が弾かれてしまった。
(攻撃しては弾かれ、攻撃されては防御して。いたちごっこだな)
リックはスクリーンに目を向けた。
(レティに負担はかけられない。何とかあいつとレティの繋がりを断ち切らないと)
ユーシュテは近くで膝をついていた研究員の元へ走ると、襟を掴んだ。
「あの男が、レティから力を奪えないようにする方法を教えなさい!ここのコンピュータに仕掛けがあるんでしょ!」
「ひいっ!しっ、知りません!あの部屋自体、何処にあるかわからないんですよ」
「ああ、もうっ!」
研究員を放して拳を下に下ろし、腕を震わせながらユーシュテは叫んだ。
「悪循環じゃない!このままじゃ助けるどころか、負担をかける一方よ!」
言われなくても分かり切ったことだ。リックは唇を噛み、眉間に皺を寄せた。
(レティ……!)
持ち主以外は知らない部屋で、レティは一人で堪えていた。
最初の時に自分を取り巻いていた管のようなものは無くなっていたが、手足をがっちり掴んだ枷が苦しめてくる。
それが怪しい光を放つと痺れのような震えが全身に走り、無理矢理力を引き出されてしまう。
「は、うぅっ……。ああっ!……はぁはぁ」
堪えようとしても出来るわけがなく、何度も続くそれにぐったりするばかり。
自分の力が何処かに流れているのは分かった。
(気持ち……悪い)
まだ浅い呼吸が整わないうちに、また枷が光った。
「んうぅう――っ!」
またゾクゾクとした感覚が全身を突き抜ける。けれど、今回は違うことが起こった。
引き出された力が、ぶつかったであろう先の何かを感じたから。
キィイイイイ!甲高い鳥の鳴き声が聞こえた気がした。聞き覚えのあるそれは。
(鳳凰……。リック……様?)
彼の力を確かに感じた。熱く激しく唸るような力強い波動。そして怒り。
(もしかして)
切実な想いは届いて、リックが自分を迎えに来たのだろうか?歌は届いたのだろうか?
そして、まさか自分の力はリックとの戦いに利用されているのか?
朦朧としてきた意識の中で、ぼんやりと思った。
「そんなの……」
(嫌!!!)
リックとは戦いたくない。傷つけたくない。
だって、ジョアンと彼は世界で一番大事な人だから。
(私の力だもの。自分で止めなきゃ。…でも、どうしたら?)
考えないとと思うのに、疲れきった体に頭がついて行かない。
「助……けて」
うわ言のように呟いた時だった。激しい音が聞こえてきた。




