漣の合間に初めてその歌を聴く2
時々、どうしようもない焦燥感に駆られる時がある。
そんなときは家を出て木々の先、海の見える岬に立って、外に広がる蒼を見ながら歌を歌うのだ。
幼い頃に聞いていた音楽の中で、一番耳の底に残る曲を。歌詞はない。ちなみに、曲名もわからない。
小鳥が少女の歌声を聞きつけ、集まってくる。彼らはとても警戒心が強い。
だから体はあまり動かさないようにして、声だけを空に届ける。
そうすると近くに来てくれて、寂しくないから。
そんな小鳥たちが、不意に慌ただしく飛び去った。歌を止め、体の向きを海と反対側へ向ける。
眉間に皺を寄せた数人が、此方へ向かって姿を現した。見覚えのある顔。
彼らは自分と同じ、この島の住人だ。何人も固まった大人たちは皆、少女へ憎しみを込めた視線を送る。
「歌はやめろと何度も言ったはずだ!」
「お前の声は不吉を呼ぶのがわかってるだろ」
「また、アタシ達を巻き添えにして災難を招き入れる気!?」
「人を巻き込んでホント最低!」
何度言われても慣れない言葉たち。耳から身体に入って心を抉る。
「わ、私、そんなことは――」
小さな声は最後まで聞き入れられることなく、上から遮られた。
「家に入って用の無いとき以外は出るんじゃない、いいな!」
言いたいことを吐き出すと、彼らは背を向けて歩き出す。
「まだ成人まで数年あるから、ここに仕方なく置いてやってるのに」
「追い出されないだけで有り難いと思わないのかしら」
「その恩も理解しないで、本当に疫病神みたいな子だよ」
こちらに聞こえるように、わざと口々に好き勝手言いながら彼らはいなくなった。
取り残された少女の瞳が哀しそうに揺れ、睫毛が震えた。
けれど彼女はふるふると頭を振り、目尻に乗っていた透明な滴を振り払った。
(あと数年、我慢すればいいのだもの。大丈夫よ、大丈夫。大丈夫だから……)
自分を元気づけるために、体の中で激しく荒々しく悲しみに揺れる心を鎮めようと努めた。