潜入作戦8
「そういうことなら聞き出すのを待ってないで、レティアーナを先に探すしかない。それで解放したら、こちらが優勢に立てるってことだよね?あの科学者は力を使えないし、リックも心置き無く攻められる」
いつの間にかディノスの側に来ていたアルが、二人にそれぞれ手を差し出す。ディノスとユーシュテは立ち上がった。
「それはそうだが、幽閉場所を見つけても恐らくすぐに入れまい」
「そこは鍵がないから、破壊して入るしかないよね」
「だが、普通の攻撃で壊せるかどうか」
「その為の俺だよ。俺の契約相手、覚えてるよね?」
「海蛇……」
「ディノスは博識そうだから知ってると思うけど、蛇は視覚以外の感知能力が鋭い。契約した海蛇に、それがあるかまではちょっとわかんないけど」
人差し指を上に立て、にこにことアルは言った。
「探すなら俺が向いてる。すぐに見つかるようなところに、レティアーナが幽閉されているとは思えないからね。君たちはリックの側に。見つかったら連絡するから」
「一人で大丈夫か?」
ディノスの確認に、アルは頷いた。
「前回の戦いの後、訓練は多少真面目に取り組んだからさ。ましになってると思う。それに、好きな女の子を助けるのはやっぱり王子様でしょ。俺、仮に王子だし」
(今回は、あんな顔をさせない……)
リックと二人、追い詰められた姿を見て、泣きながら祈りを捧げたレティの姿を思い出す。あの表情が、どれだけ自分を突き刺したか。
「あの時とは違う」
「分かった。信じて任せるぞ、アレックス」
「約束するよ」
ディノスと手をがっちりと組み合わせ、そしてアルはリックの隣に立った。
「リック。役割分担しよう。俺は取り戻すべきものを探しに行く。それでいいかい?」
「成る程な。分かった。残った俺たちで何とかしよう」
声を低くしてリックにだけ聞こえるようにアルは言い、敵から目を反らさずにリックは頷いた。
「防戦がいつまで続くかな?」
「このままでいると思ったら大間違いだ。風の勢いを舐めんな!」
リックは集中し、ぶつかる電気を腕に纏う風に絡ませた。そのまま流れを上に向ける。
ズガァン!!風と電撃が天井を破壊し、崩れてくる。埃がもうもうと上がり、視界を曇らせた。
「げほっ……。これはすごいね」
「アル」
早くしろという意味を込めてアルを見たら、驚くべきことを言われた。
「どうやって呼び出すの?」
「ああ!?そっからかよ!」
「だから、力を使う機会なんかなかったって言ったじゃん」
「自分の中に宿る存在に語りかけろ。それで応答があるはずだ」
「そうなの?」
「お前、本当に任せられるんだろうな!?」
リックは怪しまずにいられない。アルが戸惑っている間に、中から先に動いた。
『全く。……我はとんでもない相手と契約したようだな』
「君は海蛇!?」
アルの胸が光った。マントが揺れ、シャツから透けて魔法陣が浮かび上がる。足元にも同じ模様が広がった。
「俺に力を貸してくれ!海蛇!!」
胸から海水が螺旋のように溢れ出て、破壊された天井を突き抜ける程の長く大きなものになる。それはやがて大海蛇へと姿を変えた。




