潜入作戦7
「その声、君は男なんですか」
「色々あってな。どんなにみっともなくても、世界で一番大事なもののためには代えられないからだ」
リックは右手を前に出し、微かな風を纏わせた。
「レティの居場所を教えてもらおうか?俺たちは戦意の無い奴らを相手に戦いを仕掛けるほど、血に飢えてない」
カナラスを除く研究員は、固まったり隅に寄ったりしている。その様子を見たリックが言う。
「ここにいるのは、外に出ないで室内で遊んでたような人達ばかりだから……。ケンカもしたことないかもですね」
責任者は部下のことを良く分かっているようで、否定はしなかった。
「だけど、折角見つけた世界にまたといない力を簡単には手放せないでしょう。君もそうだろう?」
それを聞いたリックの眉根が寄る。
「一緒にするな。俺はレティを力だとは見ていない。それはお前だ」
一旦風を止める。
「俺は、レティが何の力を持っていなくてもいい。そのきっかけがなければ出逢えなかったが、……あの歌声が無くても。俺が見ているのは彼女の存在そのものだ」
愛するのは魂の輝き、真っ白な心、そして存在。
「だから取り戻す。レティを解放する気がないなら、奪い返すしかない」
鋭く光るグレーの瞳がカナラスを睨みつけると同時に足元から風が広がり、室内に積み上げられ散らかっていた紙面をバラバラと飛ばした。
「君が契約者でも構いませんよ。恐らく金色の乙女はそれすらも凌駕する力を秘めている。愛し合う者同士、力をぶつけ合って戦うというのも面白いと思いませんか?」
カナラスは人差し指で眼鏡を上げ、ニヤリと笑った。彼の答えはそれで十分だった。カナラスは持っていた銃をリックへ向ける。
「この距離で、この狭い場所で避けられるかな?」
「ここにいる部下を巻き添えにする気か?」
「大いなることを成し遂げるためには、多少の犠牲が必要な時もある」
リックの表情が険しく鋭くなった。
「仲間は所有物じゃない。本当に大事なものを見失った者に、上に立つ資格はない!!」
螺旋状の風が発生し、部屋を吹き荒れてリックの黒髪を激しく揺らす。紙を巻き上げ、切り裂く。
「君たち、この戦いで自分たちの上に立つ人間の本性をしっかり見るんだ。付いて行って大丈夫な責任者や上司なのか、自分の目で見て判断して見極めないと自身を危ぶめるよ!誰かに決めてもらったレールを歩けば安全なんて、とんでもない」
アルは、混乱している研究員たちに言う。
「そして、自分のすべき行動やしていることは、自分の正しい心に沿っているか考えるんだ!」
リックは一度目を閉じ、今回は眼帯をしていないそれをもう一度開く。左目に魔法陣の紋様が現れた。
研究室の床にそれと同じ模様が広がり、ゆっくり周り出す。
「来い!大事なものを背負った俺とそうでないお前、どちらが本当に強いか決着を着けるぞ」
「いいだろう。金色の乙女の力、食らうがいい!」
カナラスは引き金を引き、先ほどと同じように電撃の太い光線を放った。
「ダメ!その力を使わせちゃ……!」
手を伸ばして止めようとしたユーシュテに気がつき、ディノスが抱きしめて覆いかぶさったまま床に転げた。
リックは右手を前に出し、風で盾を作る。電撃はそこに当たり、ぶつかり合いになった。
「いきなり飛び出したら危ないだろう!」
庇ったユーシュテにいつもよりも少し強い語調で言うものの、彼女は聞き流して起き上がる。ディノスの腕を掴み、必死に訴える。
「ディノス!やめさせて!あのマッドサイエンティストから武器を取り上げて!!」
「どうした?何があった?」
「あいつが使っているのは自分の力でも、研究したエネルギーでもない!レティから無理矢理引き出して、取り上げてるものよ!!」
「何!?」
「使わせれば使わせるほど、あの子が苦しむ!」
(止めるには戦うしかない。だが、戦えばレティアーナが……)
ディノスは険しい顔をして頭を働かせるが、気が焦っているせいか対策がなに一つ浮かばない。




