潜入作戦6
「ディノス!」
ざわつく研究員の声よりも高く、ディノスは呼ばれる。
書類の散らかったテーブルの上に、檻に閉じ込められたユーシュテがいた。
鉄格子を掴み、その向こうで瞳を潤ませる。
(来てくれるって信じてた。ディノス)
「一体何なんだ!」
「関係者以外、立ち入り禁止だぞ」
三人を指差して騒ぐ研究員に、リックが腕を組んで告げた。
「お前たちが勝手に連れて行った、俺の仲間を帰してもらいに来た」
「所長!カナラス所長!」
リック達の登場に怯んだ研究員の一人は、咄嗟にカナラスを呼ぶ。
「悪の大元を呼んでるみたいだよ?」
襲いかかられることを予想していたが、相手が予想以上に慌てふためいているので、落ち着き払ってアルが言った。
「取り敢えず、ユースを」
「ああ。お前が助けてやれ、ディノス。ユーシュテもそれを望んでる」
「そのつもりだ」
ディノスは前に出た。研究員は咄嗟にユーシュテの居た檻を掴む。
「きゃっ」
乱暴に掴まれたせいで揺れ、ユーシュテが転げた。
「ユース、そのまま立ち上がるな!」
ディノスが素早く銃を構える。ユーシュテは伏せて隅に寄ったまま、両耳を押さえて動かずに待つ。
「撃つのか!?この娘に当たったら……」
「――当てるわけがない」
冷静に答え、素早く安全装置を外して引き金を引いた。
ガンガンガン!檻の細い格子を確実に貫き、その天井が外れた。
「今だ!ユーシュテ!」
リックの合図でユーシュテが立ち上がり、飛び散る隙間から外に出る。
くるりと一回転して体を光らせ、光の中のシルエットがぐんぐん成長を始める。
成長した彼女が仲間の元へ駆けつけようとした時、再びエレベーターの扉が開いた。
そして双方の間を明るく太い光が通った。
バリバリ!!気づいたユーシュテは反射的に立ち止まり、貫かれることはなかった。
だが、放たれた光は本棚に当たり、壁をも砕いてしまう。
「!!」
リック達が一瞬驚いた時、その背後から聞き覚えのない声がした。
「随分と優秀な追手のようだ。まさかもうここまで入り込むなんて驚きましたよ。だが、連れて帰られるのは困るんです。もっとも、そんなことできないでしょうけど」
エレベータから出て銃のような武器を持っているのは、白衣に眼鏡という科学者の容姿にぴったりな……。
「カナラス所長!」
「昨日も言ったけど、これだけの理系の集まりで狼狽えないで下さいよ。飾りの頭じゃないだろうに」
「ディノス!リチャード!そいつよ!悪の親玉よ」
「こりゃまた随分な言われようだ」
ユーシュテが指を差して叫び、カナラスは肩を竦めた。
「だってそうじゃない!レティが戻ってこないじゃないの!どこ連れてったのよ!」
「レティアーナはどこにいるんだい?」
「分からない!けど、間違いなくその変態科学者が幽閉してる!」
アルの質問にギュッと目を閉じ、両手の拳を震わせてユーシュテが答えた。
「あの子、世間知らずで何でも信じちゃうから……。リチャード!レティを助けてっっ!!」
「勿論だ。レティはまだこの塔から出てない。見つけ出して無事に取り返す」
リックはユーシュテに頷き、そしてカナラスを見た。
「俺たち海賊から何かを奪えると思うな。レティは返してもらう」




