潜入作戦3
「いや。此方には来てないと思いますが」
「そうですか。ありがとうございます。もう少しこの辺りを探してみます」
「……」
頭を下げようとしたら、研究員はリックを見つめた。
視線が向いているので、リックも次の言葉があるのかと待ってみる。
「良ければ、塔に登って探したら……」
「そうやって誘い込んでいたのか?」
チェルシアが話す前に、リックは挑発的な笑いを浮かべて言った。
「!?」
先程の声と全く違うものに、研究員が驚く。その隙を逃さなかった。
地面を蹴ってあっという間に距離を縮め、相手の腕を掴むとひっくり返し、肘をめり込ませて倒した。
「ぐあっ!」
『リック!何やってるんだよ!』
パンパンと手を払っているリックに、スピーカーからアルの咎める声がする。
「峰打ちだ。殺しちゃいない」
『そういうことじゃないだろ!中に招き入れられそうだったのに』
リックは地面に片膝を着き、研究員のポケットをまさぐった。
白衣の内側から案の定、身分証明書とカードキーが出てくる。
「頂き!」
それを宙に放り、また掴んだ。
「俺だけ中に入って、お前たち待ちぼうけで良いのか?」
体を捻って後ろを見たら、木の陰からアル達が出てきた。
「そりゃ、良くないけどさ」
「なら、行くぞ」
「流石だ。リック」
ディノスは褒め、一番先にリックの所へと歩き出した。
「シアはここで待ってて。サルディ、護衛を頼む」
「お気をつけて、殿下」
シャツにジーンズと相変わらず軽装な従者は、胸に手を当てて少し腰を折った。
「アレックス兄様!お待ち下さい!どうして私だけ……」
アルの背中にチェルシアが抱きつく。歩みを止めて、彼女と向き合った。
「ここにいる君にしか出来ない役割がある。もしもの時は、援軍の要請を頼むよ。俺が中に入って出て来れなくなったら、流石に陛下も動かずにいられないだろうからね。イヤホンで、俺たちの動きは何と無く分かるだろうから」
美しく輝く髪を撫で、アルはチェルシアの血色の良い頬に唇を付けた。
「もしもなんて!兄様に何かあるなんて嫌ですわ!必ず無事でお戻りくださいませ」
「勿論だよ」
チェルシアがアルにギュッと抱きつき、そして離れた。
最後にアルはチェルシアの頭をポンポンと軽く叩き、離れた。
「行ってくる」
リックが倒した研究員から白衣も取り上げ、伸びた本人は拘束した上で木陰に隠した。
そこから、少し奥まった場所にある入り口を見る。
「兵がいるな。国の施設だし、まあ当然か」
顎に手を当てて、リックが言う。
「どうするー?万が一仲間呼ばれたら面倒だよね」
「倒して転がしておいても、次の交代が来たらどの道バレるが、そのくらいの時間があれば奥まで行ける」
「眠らせるだけでいいなら出来るぞ」
「本当か?ディノス」
ディノスはリックに頷き、上着のポケットから何かを取り出した。
口に咥えてピンを外す。
「ちょ、手榴弾!?」
「紛い物だ、アレックス」
そう説明し、兵に向かって投げた。きっちり狙いの足元に転がったそれを見て、兵士が固まる。
「!??」
手榴弾もどきから、もくもくと煙が上がる。
「何だコレは!?ゲホゲホっ」
咳き込んで煙を払おうとしている間に、いつも使っているのとは別の小さな銃を取り出して構える。
「麻酔銃だ。心配するな」
アルに聞かれる前に言い、鎧にガードされていない体の部分に二発命中させた。
兵士がバタバタと倒れ、眠ってしまった。




