潜入作戦2
ふわふわ癖毛、アプリコットブラウンのロングヘアを背中で揺らしながら、レティはどういう風に歩いていただろう。
リックの足の速さよりも、だいぶスローペースな彼女。
周りの景色に細かく驚いて新鮮な気持ちで喜ぶから、速さを合わせるのに苦痛は無かった。
楽しそうに、軽やかに。でも軸はあまりぶれなかったと思う。
リックは石畳の縦ラインに爪先を合わせるように歩いたら、意外と歩きにくい。
(歩き方一つでも、綺麗に見せるのは案外難しいんだな……)
ため息をついて、ゆっくり歩くことに努めた。
足を進めるうちに、石畳の道は草に覆われたなだらかな丘へと変わる。
グレーの塔もどんどん大きくなって行く。
途中でリックは足を止めて塔を見上げた。石造りの壁の途中に、大砲のような大きな筒がある。
(俺たちに向かって電撃を放ってきたのはあれか……)
身を潜めて付いてきている三人も、リックの視線に気付いたらしい。イヤホンの向こうの話し声が聞こえる。
『あれは何ですの!?お父様があの塔を建設したお披露目の時、あんなものは有りませんでしたのよ、アレックス兄様』
『じゃあ、後から付けたんだろうね』
『お父様にお断りしたのかしら?』
『うーん。恐らくしてないんじゃないかなぁ?』
『そんな!許せませんわ!研究室の責任者を呼びつけます!』
『わーっ!待って待って!落ち着いて、シア。今ゾロゾロと出て行ったら、作戦が台無しになるから』
普通に交わされていた会話が白熱し始め、リックはため息をついた。
「煩い。スピーカーをつけたまま騒ぐな。頭に響く」
再び歩き出し、そして塔の入り口が見え始めた時に人影を見つけた。
風に揺られる服が白衣だと気づき、リックは駆け出した。
『ちょっ、待ってリック!走って迫ってきたら警戒されるよ!』
焦ったアルの声が聞こえる。
「中に入られたら、俺たちが追えなくなるかもしれない。多少怪しまれても、何とか理由をつけて誤魔化せ」
『無茶苦茶だな、君は!』
「レティは体調が本調子を取り戻しかけたところだ。グズグズしている暇はない。時間を掛けてると、また弱ってしまう」
『何それ、どういうことだよ?』
「話は後だ。音を外部音声に切り替えるぞ」
髪の内側に手を差し入れ、耳にはまっていたスピーカーのスイッチをオンにした。
これでアル達の声が、外の人間にも聞こえるようになった。
草の音で走って近づくリックに気づいたのは、男の研究員だった。
休憩に煙草を吸っていたようだが、流石に警戒を現した。煙草を捨て、靴で火を揉み消す。
「君は何ですか!」
声をかけられ、リックは立ち止まる。
「えと……。す、すみません。風に煽られて此方に帽子が転がってきたかと思うんですが、ご覧になりませんでしたか?」
女の声が答える。チェルシアだ。
姿までは誤魔化せても声は変えることができないので、受け答えの担当は彼女になっていた。
リックは口を動かし、その後に帽子がさもあったかのように頭に手を当てた。




