隠された研究7
研究室のドアが開いてカナラスが入って来た時、その後ろにレティはいなかった。
彼はパンの入った袋を、ユーシュテの閉じ込められた檻の前に置いた。
「はい。これ朝ごはん」
「ちょっと!レティはどうしたのよ!」
「彼女は別室にいる。研究に協力してもらうために」
「あの子が承諾したの?」
「人のためになるって思って笑ってたよ」
「嘘でしょ……」
ユーシュテは膝をついた。カナラスは此方に背を向け、研究員に支持を出した。
「モニタースクリーン出して」
「はい!」
スクリーンの前に座っていた研究員がタッチパネルを操作し、映像を繋ぐ。
ヴヴン……。パッと画面に現れたのは、台の上に横たわるレティ。お腹の上で手を組んでいる。
その腕や足、至る所に何らかの管が繋いであるらしい。
「何する気なの……?」
「見てればわかる」
少しだけ視線をユーシュテに向け、カナラスが疑問に答えた。
彼はユーシュテの側から離れ、自らコンピュータの前に行った。
「金色の乙女の力とは如何程に……」
端の方に着いていたスイッチを押し、管が緑色に淡く光った。その光が上からレティに向かって流れていく。
到達した瞬間に、藍色の瞳がカッと開いた。
「うあっ!……あ、あ、あっ!いやああああ――っっ!」
身体のエネルギーが引き抜かれるような感覚。
悲鳴を上げ、背中が浮いて頭が反る。レティの体から金色の光が溢れ、閃光になって弾けた。
画面が光に覆われて何も見えなくなる。
バン!パンパン、パリィン!!レティの側にある機械かガラスが割れる音が響く。
スクリーンの此方側でも計器の針やメモリが激しく反応し、終いには割れたり煙を上げてショートしてしまうなどのハプニングに見舞われた。
「やめなさい!何やってるのっっ!!」
檻を掴みユーシュテが大きな声を出すが、機械のトラブルでかき消されてしまった。
「機械でも測れぬほどの強力で膨大なエネルギー!素晴らしい!これを手に入れれば、様々なことに利用できる」
両手を広げ、カナラスは感嘆した。機械が壊れた影響で、レティは解放されたらしい。
虚ろな瞳で涙を流し、短い呼吸を繰り返していた。
(何なの、この男は!?レティをどうする気なのよ!)
ユーシュテは唇を噛んだ。
昼過ぎに広場にある本屋の前で、リックとディノスが壁に寄りかかっていたらサルディがやって来た。
彼に連れられて、セレブ御用達のような大きなホテルに連れられた。
アルが居るらしい五階はエレベータと階段前に兵士が立ち、通路はSPがうろうろしている。
その一室に案内された。
向かい合うソファと別に、誕生席に位置するところにも一人掛けのソファがあり、そこに一人座っている。
「ああ、リック。来たね」
部屋で歩き回っていたアルが開いたドアに気づき、此方に目を向ける。
「アレックス兄様」
腰を下ろしていたのはレティよりも若い女性。まだ女の子と呼ぶに相応しいであろう、十三、四歳くらいの顔つき。
利発そうな瞳は吊り気味で、深いグリーン。綺麗に巻かれた黒い髪が腰のあたりまで到達し、美しく艶を作り出している。その彼女がアルトのような落ち着いた声でアルを呼んだ。
「そちらの殿方お二人が、兄様のお待ちになっていた方ですの?」
「そうだ。友人なんだ。訳あってイルマリで出会ってね」
そう説明し、アルは二人の間に立った。王女も丁寧な動きで立ち上がる。揃えた指先を向け、アルがお互いを紹介する。
「此方、リックとディノス。で、此方がアリオナ王国第一王女で、俺の従姉妹のチェルシア」
「アレックスがお世話になっております。チェルシアと申します。本日は宜しくお願い申し上げますわ」
チェルシア王女は膝丈のワンピースのスカートを指先で持ち上げ、腰を軽く下げて優雅に挨拶をした。
「此方こそ宜しく頼む」
リックとディノスが差し出した手を、チェルシアがそれぞれ取って順に握手した。




