隠された研究6
「なら、この国のことも少しは知ってるわけだ」
「何年かぶりの久々の訪問だから、期待には添えないかもしれないよ?」
眉を下げ、アルは笑った。それから、逆に尋ねる。
「リック様御一行が居るっていうことは、もちろんレティアーナも居るんだよね?」
「その呼び方はよせって言ってるだろ!」
「すぐそうやってムキになるー。冷静な振りしてるけど、余裕がない時が結構有るよね?」
「――くっ」
図星を突かれたリックはアルから目を反らし、拳を握った。
どうもこの男といると、調子が狂いやすい。気づかれないように、ディノスは口元を緩めた。
「で、レティアーナは?どこ?」
マイペースな王子は左右に体を揺らし、リックの後ろを覗き込む。
怒りたいのは山々だが、ここで時間を食っている暇はないし大人気ない。
リックは息を深く吸い込み、吐き出した。
「残念ながら、ここにはいない」
「じゃ、船?もう一人の派手な女の子と一緒にとか?」
「――それが」
「ん?」
悔しそうな思いつめた表情のリックを見て、アルが眉を潜めた。
元々聡い彼は、話を聞く前に何か良くない予感を瞬時に悟る。
「何か……あったんだね?」
遠回しに聞く必要もないので、ストレートに尋ねた。
ここの土地のことを迅速に調べるには、今はアルの力も借りた方がいい。
人集りを避けるために人通りの少ないところへ移動し、リックは手短に事情を話した。
「はあ!?レティアーナとあの女の子を奪られた?」
「声が大きい!」
アルの口を押さえようとしたが、避けられてしまった。
「何で俺のレティアーナが!?」
「しれっと俺のって言うな。――ったく。レティが何か珍しい力を持っていることは、アルも見たし知ってるだろう?」
「妖精か天使みたいになるあれだね?」
「どうもその力に目をつけた輩の仕業らしい。乗り込まずに、レティから敵のところへ行くように仕向けやがった。聞けばここの土地には妙な噂もあるみたいだし、情報を集めていたところだ」
アルは少し離れた曲がり角の前で、腕を組んで立っているサルディを見た。
「どう思う?」
背を向けていた従者は体を反転させ、静かに答えた。
「殿下が今回招かれた理由に通じている気がします」
「だよねぇ」
「実はさ、ここの王女から、急を要する相談があるって連絡があったから来たんだよね。話を聞いてみないと何とも言えないけど、何やら宜しくない雰囲気があるのかもしれないなぁ」
アルは腕の上に肘をつき、自分の顎をもう片方の手で弄りながら言った。
「今から話聞きに行くけど、同席する?」
「冗談。俺たちは一般人でもないんだぞ」
「まあ……それもそうかぁ」
うーんといった感じで頭を捻っていたら、サルディが口を挟んだ。
「恐れながら殿下、王女殿下から出向いて頂くことは出来ないのでしょうか?王宮の中では話しにくいこともございましょう」
「あ、その手があった」
手のひらの上で拳をポンと叩く。
「いつも王宮の中じゃ退屈するだろうし、気晴らしも兼ねて外に誘うか」
「大丈夫なのか?」
「年の割にはしっかりした子だからね。国王陛下に挨拶をして、それから会ってだから……昼には。その頃に、街の中心あたりにいてよ。サルディを迎えに行かせるからさ」
「わかった」
リックが頷き、それまで黙って話を聞いていたディノスが口を開く。
「協力に感謝する。アレックス」




