隠された研究4
「ちょっといいか?」
カフェのテラスでテーブルを拭いていたウエイターに、ディノスが声をかける。
人の良さそうな店員は作業の手を止め、姿勢を正した。
「申し訳ございません。お客様。開店はあと三十分ほどでございます」
「ああ、そうではないんだ。聞きたいことがある」
店に用があるのではないと手を振った。ウェイターが首を傾げる。
「何でございましょう?」
「この街にあるあの灰色の高い塔だが」
「あれですか。あれは研究施設です」
「成る程。中で何を研究しているのか知っているか?」
「さあ。エネルギーの研究……?だとか聞いたような気がしますが、何せ随分前のことですので」
「そうか。邪魔してすまなかった」
立ち去ろうとしたディノスを彼が呼び止めた。
「あの!あの塔に何か用でも?」
「まあ、少しな。興味があって」
「近づかない方がいいですよ」
「それはどういう……」
改めて話を聞き直そうとした時、声がかかった。
「副船長!」
ジャンがのしのしと走ってくる。そちらに目を向けた。
側まで来て、ぜいぜいと呼吸をしながら言った。
「変な話があるんです。船長はもうお連れしました。来てもらえませんか?」
「わかった。すぐ行こう。質問に答えてくれて助かった」
店員に改めて礼を言い、ジャンについて行った。
街を抜け、民家ばかりになったその先に小さな農園があった。入口の切株に、赤いロングジャケットを羽織った後ろ姿が見える。
その前にじゃがいもと人参が小さく積まれている。リックはそれらの土を手で落とし、木箱に入れるという作業を黙々とやっていた。
「何やってる」
「ああ、来たか。お前を待つ間、手持ち無沙汰なんでな。何と無く」
汚れた手を見せ、ほら、とディノスに付けようとしてかわされた。
「子どもか。」
嫌そうな顔でディノスが突っ込むと、ニヤニヤ笑われた。
顔には出さないが、流石にイラッと来た。
「ご主人!さっきの話、もう一回いいですか?」
口元に手を添えジャンが声をかけたら、根菜を抜いていた中年の男が腰を上げた。
日よけの帽子の下についていたタオルが揺れた。
「よっこらせ……っと」
軍手についた土を手を叩いて払って首にかけていたタオルで汗を拭い、此方に来た。
「さっきからやたら話を聞きたがるが……。あんたさんら、あの塔に行くのかい?」
「まあ、色々あってな。あそこに興味があるんだ」
リックが適当に答えた。
「この地を治める王国は、科学研究を推進してんだ」
「……らしいな」
壁に寄りかかり、腕を組んだディノスが頷いた。
「最初は、至極まともな研究をしていたと思う。けど、他所の土地から、責任者として優秀らしい一人の研究者が招かれた。その後しばらく経って、あの研究塔付近で神隠しの事件が起きたんだよ」
「居なくなったのは誰だ?」
リックが尋ねたので、畑の主がリックを見た。
「若いカップルだ。行方が途絶えてそれから一ヶ月後、男の方だけが見つかった。何があったか聞こうにも、ぼーっとしていて殆ど記憶がないようだったらしい」
「……」
リックとディノスは顔を見合わせる。それから再びリックが尋ねた。
「しかし、エネルギーの研究をしてるんだろう?人体実験でもしてるわけじゃないだろうし、それと研究内容と何が関連あるんだ?」
「そこまでは分からんなぁ。だが、この賑やかな街でもひっそりと姿を消す者が出てきている。それも若い女性ばかりだ」




