隠された研究2
人々の行き交う賑やかな街から静かな塔へ戻った。
研究員が使ったのか、上へ上がってしまったエレベータを待って乗り込む。
エレベータの着いたところで、カナラスについて歩いていた。
外は行きと似ていたので分からなかったが、カナラスが白衣のポケットに手を入れて鍵を取りだし、ドアを開けたので、ユーシュテのいる研究室とは違うのだと気がついた。
「ここはどちらですか?」
「僕だけが入れる研究室です。入って」
薄暗くてよく見えなかったが、彼が入り口のスイッチを点けて明るくしてくれた。
中には円柱型の水槽がいくつも並び、そこから管が繋がれて壁に通じている。
カナラスが前へ歩いたので、レティも続いた。
エメラルドグリーンの液体が入った水槽の横を少し通り抜け、そして立ち止まった。
視野に何か入ったと思い、見渡して驚愕する。
「きゃっ!」
水槽の中には女性が入っている。
驚いてその水槽から後ずさり、そして向かいの水槽にぶつかった。後ろを見たら、そこにもやはり女性がいる。
「!!」
入り口の方は良く見なかったのか光の加減なのか分からないが、一つの水槽に一人女性が入っているようだ。
おぞましさに背筋がゾッとした。
カナラスは振り返る。そしてレティの様子を見て、何でもないように言った。
「驚かせてしまいましたか。それは人じゃなくて、オブジェというか人形みたいなもの。良くできているでしょう?」
「人形……」
あまりにも精巧な作りで、生きたように見える。
口元にマスクのような何かが当てられ、泡が時折上がっていることも余計に人間に見せている。
「なら……良かったです」
本当だろうかと疑いながら、カナラスの元へ歩いた。
「先程、新しいエネルギーの研究とおっしゃられてましたよね?」
「そうです。僕は人の秘めたエネルギーに注目してるんだ。太古の生物は死んで、それらの遺したエネルギー資源はやがて枯渇する。けれど、今を生きる生物からヒントを得てエネルギーを作ることができれば、全てが絶滅するまで使えるじゃないですか?」
カナラスは先程の研究室にあったような、巨大なスクリーンの前に立って言った。
そして、その下にぐるりと広がるコンピュータと思われる機械に寄りかかって言う。
「確かにそうですね」
レティは頷いた。
「特に女性は、我々男よりも何か大きな力を持っていると思ってる。出産に耐えられる力もそうだし、命を体に宿せる不思議もそうだ」
「それで、この人形さん達を……?」
「そうですよ。流石に、本物の女性をここに閉じ込めて置けるわけがない」
気味悪く思いながら、レティは振り返って巨大な水槽の数々を見た。
液体の中で女性の髪がゆらゆらと漂っている。
「……」
(やっぱり生きてるみたいに見える……)
視線を前に戻そうとしたレティの耳に、何かが聞こえた。




