隠された研究
街でカフェ併設のパン屋に行き、そこで朝食を済ませた。
ユーシュテの為に、惣菜パンを三個と菓子パンを二個、紙パックのオレンジジュースにカップヨーグルトを買って帰った。
男性が食べるよりも遥かに多い量にカナラスは笑っていたが、ユーシュテの食欲が普通とは違うと説明をした。パンの袋を下げ、研究所に戻る道で話した。
「エネルギーの研究ですか?」
「そう。新しいエネルギー資源の開発調査を含めた研究をしているんだよ。できれば枯渇しないようなね」
「そうなんですか。見つかったら皆さんの為になると言うことですね」
人々の役に立つ研究なのだろうと思い、レティは優しく笑う。そんな彼女を見ながら、カナラスは心で呟く。
(うーん。素直で前向きな捉え方はするんだけど、どうもこう……自分の置かれた状況を理解するのに時間がかかるタイプですね)
「それもあるけど、僕の場合は自分の興味を満たしたい気持ちの方が強いかな。君も興味の対象。手伝ってもらえません?」
「お手伝いってどんなことをするんですか?」
レティにも自分の力は殆ど理解できていないし、勉学の面でもそこまで好んでいたわけではないので生活最低限の知識しかない。
「君とそのお友だちの小さなお嬢さんの力を調べたいんだ。体をね」
「え!」
レティは立ち止まる。その不安がわかり、カナラスも足を止めて少し笑った。
「言い方が悪かったですね。体を調べるって言っても、解剖したり服を脱がせたりするわけではないんで」
「ああ、良かったです。そうなのかなって思ってしまって」
ほっと胸を撫で下ろし、再び二人は歩いた。
「あの。あと、注射とかもちょっと嫌……、苦手で」
「じゃあ、針も無しにしましょう」
「それが終わったら、帰れるんですか?」
「勿論。分析結果がわかって興味が満たされたら、無事お帰しします」
「はい。帰るのが遅くなってしまうと、リック様がきっと心配されるから」
「?」
カナラスはレティを見て、それから違和感を感じた発言の理由を悟った。
(そうか。来たときの事は覚えてないんだったな)
覚えていないレティは、どういうわけか、リックに断ってカナラスの呼び出しに応じたと思っているようだ。
だから、ユーシュテのように怪しむべきカナラスに普通についてきている。
「恐らくですが……。君はその仲間に断ってここに来たんではないと思いますよ」
「!!?」
予想通り、レティの表情が驚きに固まる。
「私、リック様に黙ってここに来てしまったんですか?」
「多分」
「た、大変です。そしたら私、一旦戻らないと」
「どうやってです?この街から、港や船の場所が分かりますか?」
「それは……」
リックの船は商船とは違う。
保安官の居ないような小さな島では港に停泊させることもあるが、基本的に保安官に見つかって騒ぎにならないようなところに船を寄せる。
その場所は今のレティには想像がつかないし、リック達がこの街に入っているかが分からない。
「君がやたら動くよりも、向こうの大勢の人数で探してもらった方が早いですよ。それにここも、たまにゴロツキと呼ばれる行いの良くない輩もいるんでね。なのでその間、研究を手伝うと言うことで」
「……はい」
確かにカナラスの言う通りにするのが一番効率が良さそうだ。
(リック様、ごめんなさい……)
黙って出てかないと約束したはずなのに。
いつもレティを気遣って甘く優しくしてくれる彼も、度を越える心配をかけたら怒るかもしれない。レティは申し訳なさで、ため息をついた。




