自ら去る5
「はい。自分は彼女を止めようとしたんですが、眩しく光って驚いて手を離してしまったんです。すみません。その時に手の届かないところへ上がって、船から出ていってしまったんです。スピードもあったし、止めきれなくて。自分のせいです。あの時、手を離さなかったら……」
「自分を責めるな。俺もお前達を責める気はない。レティはただの一度も、自分の意思で仲間に向かって攻撃をしたことはない。ケンカもな。何かあったと考えるのが自然だ」
「具合が悪かったから、力が暴走したのか?」
ディノスがリックの顔を見た。
「一理あるかもな……」
「そう言えば彼女」
「ん?」
クルーが何かを思い出したように呟いた。
その場にいた全員の視線が、彼に集まる。
「こう言ってました。うわ言のように『行かなきゃ』と。意識がはっきりした様子もなかったんですけど」
「行く?どこにだ?」
「それが、場所までは言ってなかったんです。船長」
「一体レティアーナは、どこに向かったんだ?」
「あの、飛んでいった方向ならわかります」
「教えてくれ。外に出よう」
リックが立ち上がり、全員同じようにした。甲板に出る。
ユーシュテを追いかけたときと同じように夜風が強く、リックのジャケットがはためいた。
「だいたいあっちの方向です」
「!」
リックはディノスと顔を見合わせた。ユーシュテが連れ去られ、自分達が追った方向と重なる。
「あっちは確か……」
「ああ。リック、航海士を呼ぼう」
「呼んできます!」
クルーが一人、中に入った。
「見張っていた間、全く外には異常がなかったのか?」
「はい、特には。ユーシュテさんの時みたいに、鳥らしきものもいませんでしたし」
ディノスの確認に、残ったクルーは頭を振った。
「それなら、何がレティアーナを動かしたんだ……?」
リックも考え込んだ。分かるだけの情報を整理する。
具合が悪い。いつもと違う様子。仲間へ向けた力。無断で飛び去る……。
(俺がもし敵なら……)
「まさか、狙いはレティだったのか?」
リックの呟きを聞いたディノスが、驚きの表情で見てくる。
「何だと?」
「レティの力を、ユーシュテのものだと最初に勘違いしたんじゃないか?だから、初めはユーシュテが狙われた。レティの力は誰にも説明できないが、ユーシュテも大きさを変えられるあまり見ない体だ。そうすれば、二人ともいなくなった説明がつく!」
「ユースを助けようとしたときに出した力で、レティアーナのものだと後から気がついたってことか」
「俺が敵なら、警戒した場所に二度も踏み込む真似はしない。入り込むのは難しいだろ?なら、ターゲットから来るように仕向けるのがいい」
「どうやって?」
「催眠か洗脳だ」
「だとしたら、敵は誰なんだ……」
「航海士を連れてきました」
「夜分に叩き起こして申し訳ないな」
「いえ。こんな時ですから」
ディノスの謝罪に航海士は頭を振り、リック達と食堂に入った。海図と世界地図を広げる。
「ユーシュテとレティがいなくなった方向、その先に陸があった。ここから一番近いのはどこだ?」
「我々の船がこの辺りですので、そこから見るとここですね」
航海士の指先が、海から一直線にある場所へ滑る。
「ここはアリオナ王国の治める土地です。アリオナは、確か科学研究を国が推進していた所かと思います」
「科学……?そうか、科学か!ディノス!」
リックとディノスは顔を見合わせ、お互いに頷く。
「契約者でもない。相手が攻撃に使ってきたのは科学だな、リック」
「理系の狂科学者が敵か。となると、俺たちを襲った電撃を放ったあの塔が、研究所だな。なるほど、いかれた科学者がレティの力に目をつけたってとこか」
リックは納得して頷き、そして笑う。
「有限のエネルギーから作り出す攻撃に対し、こっちは力の源と範囲の大きさが違う。経験したことがない戦いだが、負ける気がするか?」
「いや、全くしないな」
ディノスと手をパンと叩き合わせた後に握った。




