自ら去る4
レティは光を収め、そして小さく呟く。
「行か……な、きゃ」
「どこに!?リチャード船長はそのこと……」
レティの周りに浮かんでいた小さな光の粒が、螺旋状にくるくると体を流れて動く。
そして問いかけられた言葉には答えずにレティは少し上にふわふわと移動し、その後童話の妖精のように光を散らせながら、スピードを上げて飛んでいってしまった。
「レティアーナちゃんっ!戻って!」
「一人で出たら危ない!レティアーナさん!!」
廊下をバタバタと慌ただしく数人の足音が駆けていく。そして、リックの部屋のドアが荒っぽく叩かれた。
「船長!船長!起きてくださいっっ」
リックはすぐに目を覚ました。ベッドに横たわる存在を気遣い、静かにしろと言おうとして驚いた。いつの間にか、レティがいない。そして自分にはジャケットが掛けられている。
「レティ……?」
「船長っっ!」
再びドアの向こうから焦った声がして、リックは立ち上がった。
「今行く」
ジャケットを羽織り、足早に歩いてドアを開けたらクルーが何人もいた。
「どうした?」
「レティアーナちゃんが、一人で外へ出ていってしまったんです!」
「何!?」
「様子もいつもと違って何だかおかしかったし、上手く引き止められなくて。すみません!」
(レティ……!)
「悪いがディノスを起こして、食堂に連れて来てくれないか?」
「副船長はもう呼びに行きました」
「そうか、分かった。お前たちも来てくれ。状況を知りたい。まだ寝てるやつもいる。今から起こすことはないから静かにな」
「はい!」
リックは先頭に立って歩き、その後にクルーが続いた。少しして角を曲がったら、丁度ディノスと彼を連れてきたクルーに会った。
「リック」
「夜中にすまないな、ディノス」
「いや。レティアーナが一人で居なくなったとは本当か?」
「そうみたいだ。俺の部屋で寝かせていたんだが、起こされたときには既に居なかった。だけど、レティは断りなしに出ていったりしない。それもこんな時に」
「そうだな」
リックを助けるために一人で外へ出たときも、きちんと断りを入れた彼女だ。
「様子がおかしかったらしい。寝ていたとはいえ、俺が迂闊だった」
ディノスと並んで歩き、リックは食堂に向かう。
「!」
「扉が破壊されてるな」
「何だこれは?――いや、今は状況を把握しよう」
粉々に砕かれた甲板へと続く扉を見て一瞬足を止めるものの、リックは食堂に入った。
すぐ後ろに続いていたクルーが、明かりを点ける。
真ん中のテーブルに数人が座った。
「まず、レティの様子がおかしかったと言うのは?」
「はい。いきなりあの扉が破壊されて、驚いてそっちを見たら、レティアーナちゃんが倒れていたんです」
「酷く具合が悪そうでした」
「けど起こそうとしたら自分で起きて、その後ふらふら歩いていって……。その、飛んで行ってしまって」
(レティは今のところ、あの力を自分の意思通りにいつでもコントロールできているわけじゃない。ユーシュテのことが気になって、先に行ったというのは考えにくいな)
手を顎に当てて考えていたら、難しい顔をしていたのかクルーが遠慮して話を止めていた。
リックは気づいて手を下ろした。
「ああ、悪かった。話を続けてくれ」




