自ら去る3
酷く不快な気分になり、眠っていたレティは目を開けた。寝ていた部屋は、電気のせいで明るく広い。
(リック様のお部屋……)
居場所はわかったが、ベッドに寝ているのはレティだけ。リックは机に座り、読みかけの本の上に伏せて寝ている。
ここから続く書庫のドアは開けっ放し、そこの電気も点けっぱなしだった。彼にしては珍しい。
レティは起き上がり、書庫の電気を消しに行った。
歩くと頭がクラクラし、おまけにズキズキと鈍く痛む。キーンと耳鳴りも僅かにする。自分で額を触るものの、熱はない。
ゆっくりと本棚伝いに歩き、電気を消して折り返す。リックの部屋に戻ってソファの背に無造作に乗せられていたジャケットを取り、彼の背中にそっと掛けた。
(頭、痛い……)
ベッドに入らずに医務室に行こうと決めて部屋の電気を消し、通路を歩く。汗をかいているせいか、喉に渇きも覚えてくる。
医務室に行く前に、先に食堂へ行って水を飲もうと方向を変えた。
動いているせいなのか分からないが、食堂へ近づくにつれて頭の痛みが小刻みになってくる。
「はぁ……っ、はぁ」
壁に体を預け、時折立ち止まりながら進んだ。通りすぎる部屋から、たまに聞こえてくるクルーの鼾。時計は見ていないが恐らく今は深夜で、誰ともすれ違わない。
レティの状態に気づく者もいない。
やっとの思いで食堂へたどり着いたときだった。
キン!ピイイィ――――。
それまで僅かに聞こえていた耳鳴りに金属音のようなものが加わったと思ったら、高く耳障りな音が鳴り止まなくなった。
「ああ……っ!」
耳を押さえて床に膝をつく。目を閉じても耳を覆う手を強くしても、音が消えてくれない。
「やめてっ」
目の前がグラグラと揺れる。アプリコットブラウンの髪をふわふわと漂わせながら、縮こまった体が床に倒れた。心臓が暴れて揺さぶられ、呼吸が短くなってきつい。
(助けて)
華奢な体に光の波が流れ、点滅を始めた。
徐々に意識が霞んでくる。
(もうダメ……)
苦しさから逃れたくて、レティは目を閉じた。そして。
カッ!ドカン!持っていた力が閃光になり、食堂と外へ続くドアを爆風で吹き飛ばした。
「!?」
甲板で外を見ながら話していた見張りのクルーが驚く。大きな音で、部屋で寝ていたクルーも寝惚けながら目を覚ました。
外にいた者の目についたのは、床に転がるレティ。
「レティアーナちゃん!」
すぐに駆け寄ってくれるが、助け起こされる前にレティは自分で起き上がった。
「……」
先程の体調不良がない。その代わり、いつもの表情も失われていた。
虚ろな瞳。
ふらふらと歩き、側にいたクルーが何となく流れで避けた。甲板へ出る。
背中が淡く光り、透明に透ける金の翼が出てきた。
外へ進み出て、そして足がふわりと床を離れる。スリッパがポロポロと脱げて転がった。
「待って!」
クルーの一人が走ってきて、レティの手を掴む。
「どうしたんだ?」
ゆっくりと瞬きをしながら、レティが自分を止める人物の顔を見る。そして閃光のような光を放った。
「うわあっ!」
驚いたクルーがレティの手を放し、自分の目を覆う。




