自ら去る
真っ暗な空と海の間。ぼんやりと光が現れる。
レティの体を流れる光は、自分とリック、そしてディノスを丸い光で包む。落下速度が急激に緩くなる。
レティの背中に翼が現れた。
「レティ……」
(どうか私たちを助けて。あの時のように)
『大丈夫だよ、レティアーナ。そのまま下に来て』
何かが水面で跳び跳ねる音がする。金色の球体にふわふわと降ろされ、その光で見えたのはたくさんのイルカだった。
「イルカさん!」
「こ、これはどういうことだ?」
初めて経験することに、ディノスは戸惑う。リックは二度目なので慣れていた。
(またレティが呼んだのか)
『君の声が聞こえたよ。どこに行けば良い?陸?それとも海のどこか?』
「リック様、どこに行きますか?」
レティはリックを見上げた。
「追いかけたいのは山々だが。このざまだしな……」
ディノスやユーシュテの気持ちを思えば、陸にいきたいところ。
でも痺れの残る体で、しかもこの人数ではケガをして追い返されるのが関の山だ。
「出直そう。情報も今は少なすぎる。少しの間なら、ユースはきっと大丈夫だ。あの気の強さだからな」
「確かに……。ディノスがそう言うなら、そうなんだろうな。明日、手分けして情報を集めよう」
「なるべく早くユースちゃんを助けましょうね?」
レティが言えば、リックはよしよしと頭を撫でてくれる。
「勿論だ。一先ず体勢を整えよう」
頷いて、ゆるゆると泳ぐイルカにそっと話しかける。
「イルカさん、私たちの船にお願い。場所は分かるかしら?」
『うん、大丈夫。分かったよ』
イルカは答え、三人を連れて海を泳いだ。
「レティアーナはイルカと話せるのか?」
「どうもそうらしい。俺らには鳴き声にしか聞こえないんだがなぁ」
「そういえば……。少し前にユースが、レティアーナとリスが話していたと言ってたな。勘違いかと思って、適当に聞き流していたんだが」
「そうか……」
リックはディノスの話を聞き、そしてレティを彼女の後ろから抱き寄せた。
「レティは本当に不思議だな」
「え?何ですか?」
振り返って聞くが、リックは笑っただけでレティは首を傾げるばかりだった。
カモメは塔の窓から中に入り、研究室に着いた。
大きな白いテーブルに降り立つ。
そこで眼鏡をかけた白衣の男性がポケットに両手を突っ込み、檻に入るユーシュテの前に立った。
一旦手をポケットから出し、自分の胸に当てて腰を少し折った。
ユーシュテは怯むことなく、さっと立ち上がって睨みつける。
「初めまして。コロポックルのお嬢さん」
「あんた誰?」
「この科学研究室の責任者、カナラスです」
「何であたしを連れてきたのよ」
「君はコロポックルなのに、何故か人と変わらない姿になるようだから。そんな話、聞いたこともない」
「人間とコロポックル、両方の血が流れてるからじゃない?」
「ほう。そうなのか?」
「教えてあげないわよ。あたし、あんたには忠誠誓ってないもの。人として好きでもないしね」
腕を組んで、ユーシュテはそっぽを向いた。
「これはこれは随分とはっきり物を言う……」
「ええ、そう。あんたみたいなのは嫌いよ」
檻越しに此方を覗いてくる顔を横目で見て、突っぱねるような笑いを浮かべた。
「連れてきたからには分かってるんでしょうけど、海賊を自分の思い通りに動かそうなんて無理な話よ。あたし、あんたには従わないから」




