謎めいた力9
「科学の兵器なんか無いですよ?」
「ちょっとちょっと。君たち仮にも理系君でしょ?頭を使えばいくらでも攻撃できるんじゃないかい?資源の研究ならしてるでしょ。エネルギーは立派な武器だってこと。さっきも電気使ったし」
「それはそうですが、敵が迫ってるこの短時間でどうやって……」
「やらなきゃいけないときはやるよ。指示するから準備して」
「はいっ」
カナラスは近くにいた女性研究員の抱えていたバインダーを取り上げ、挟まっていた紙を裏返してペンを走らせた。
小さい鳳凰が完全に追い付き、カモメの周りでグルグルと回りだす。
(リチャードの鳳凰!――ということは)
腕は掴まれたままだったので、ユーシュテは出来るだけ視線を背後に向ける。
離れた空に大きな鳥が見えた。
(来てくれた!)
スピードを上げて近づく鳳凰とユーシュテの距離が狭まっていく。
その時、カモメの爪が伸びて形を変え、檻になった。
「カモメの足が檻になったぞ。奪い返させないつもりか。ディノス。お前の言う通り、ただのカモメじゃないな」
「変化があったと言うことは、相応に何かしら起こるかもしれないな」
「ああ」
ディノスは腰に着けていた銃を出し、リックもレティを支えていない方の手を剣に添えた。
少し経って、カモメは急に上昇した。
「何だ?」
「塔だ!」
リックは変化を見つけた。塔の一部が光を貯めている。
そして何かを考える間もなく、そこから此方に向かって太い光線が放たれた。
(ヤバい!)
リックが剣から手を放し、右手を前から横に向ける。盾のように風が前に広がる。
衝撃が風にぶつかった。
「きゃっ!」
咄嗟の防御だったのでそんなに堅くもなく、衝撃が盾から伝わってくる。
鳳凰が驚いて鳴き声を上げた。安定していたはずの鳳凰の体がぐらつき、レティは小さく悲鳴を上げる。
前方しか守れていない。衝撃はやがて分散して細い光になり、襲いかかってきた。
バリバリバリ!!!!
光の正体は電気で、鳳凰ごと戒めのように取り巻いてきた。
「うああっ!!」
「ぐうっ!」
「いやあぁっっ!」
電撃が三人を貫き、再び鳳凰が驚きの声を上げて風になって消えてしまった。
まだ陸についてもいない。海の上だ。
鳳凰がいなくなり、レティ達は落下する。
(この高さから海に落ちたら、地面に叩きつけられるのと変わらない!)
リックは焦る。だが、体に電撃の痺れが残っていて鳳凰を再生させられそうにない。
鳳凰が消えたのはユーシュテにも見えていて、落下する三人を見て檻を掴む。
「ディノス!!リチャード!!レティ!」
(リック様、ディノス様……)
レティは目を閉じてリックに身を寄せ、シャツを握りしめた。
(このままじゃ……皆、夜の海に落ちちゃう)
真っ暗な海に落ちることの危険性くらい、教えてもらわなくてもわかる。
獰猛な海の生き物が近づいても目に捉えにくいし、戦うフィールドとしては最悪だ。
それに漂っているだけだとしても、船から見つけてもらえないかもしれない。
(何とかしなきゃ)




