謎めいた力5
「ユースちゃん!!!」
咄嗟に、レティは両手でユーシュテの体を掴む。両者の間で引っ張り合いになった。
「いたーい!痛い痛い痛い!!」
「ごめんね、ユースちゃん!けど……っ!」
悲鳴を上げるユーシュテに謝るが、ここで彼女を解放したらカモメに連れていかれるのは間違いない。レティはどうしても手を離せなかった。
「かっ、体が千切れるでしょーがーっ!もぉおお!」
ユーシュテは叫び、発光した。
「ふあ、あああっ!」
レティの手に収まらないくらいにぐんぐん成長し、大きくなった。
レティは離れたが、それでもまだユーシュテの服を引っ張るカモメ。
「何なのこいつ。うざっ!触んないでよ!破れる!」
「ユースちゃんのこと、気に入ったのかな?鳥さんは寝てる時間なのに、珍しいね」
ユーシュテは自分からカモメを引き剥がそうと躍起なっているが、居るのが後ろのために良く見えずに上手くいかないらしい。奇妙なカモメをレティが見ていると、更にアクシデントが起こった。
ーーバサッ、バサササッ!!
何処から出てきたのか分からないが、大漁のカモメが飛んできてユーシュテの両腕を掴んだ。
「はあ!?」
「えぇええ!」
今の彼女の体を持ち上げるには、全く足りないであろう数だったが……。
ふわりとユーシュテの足が地面から浮いた。
「だっ、だっ、ダメぇえ!カモメさん、やめて!ユースちゃんを放して!」
レティはユーシュテの手を掴む。カモメの力は異常に強く、レティの腕が震えた。
「ちょっ、これただのカモメじゃないでしょっ!」
「リック様、ディノス様っっ!ユースちゃんがっ」
大きな声を出したいが、ユーシュテを引っ張るのに精一杯でそこまで気が回らない。
レティは引きずられ掛け、おまけに手が少し滑った。
レティの妨害のせいで、ユーシュテがなかなか船から離れない。
歯を食い縛ってしがみつくレティ。そんな二人の耳に、聞きなれない声が聞こえた。
『止めさせなさい。ちょっとショックを与えるんです』
「!?」
「レティ!手を放しなさい!」
「嫌!そんなことしたら……」
何かが起こると思ったユーシュテが止めるものの、レティは頷かない。
そしてカモメの体が青白く光った。パチッと乾いた音がしたと思ったら、ユーシュテを通じてレティに衝撃が走る。
「あああああっ!」
「きゃああぁ!」
電撃に驚いて、ついに二人の手が離れる。しかし、さすがに電気が放つ明かりに、見張り台が異常に気がつく。船に警鐘が響いた。
「ユースちゃん!」
どれだけ手を伸ばしてももう届かない。ユーシュテとレティはどんどん離されていく。
「やだ……。そんなのやだ。――ユースちゃんっっっ!」
叫び、涙が散った。レティの想いに呼応して、金色の波紋が下から上に流れ、そして体から閃光を放つほどの強いものになる。
背中に透明金の翼を背負い、レティは床を蹴った。




