謎めいた力4
「計器の様子はどうだ?」
「特に目立った針の振れはありません」
「成る程。――しかし何だろうな。あの船には何かあるのか」
「あの女何ですか?魔術師か何かですかね?」
「いや、違うな。恐らく……」
隣の研究員に頭を振り、そして他の者を見た。
「種族と生物の本はここにあったかな?」
「はい、所長。ただ今」
女性研究員が部屋壁に設置された本棚から、分厚い本を持ってきた。
それを受け取ったカナラスが目次から索引し、あるページを開く。そしてある種族の所を、人差し指の関節でコツンと叩いて示す、
「これだろう」
「――コロポックル?」
「そうだ」
「物語の中だけでなく、実際に今でもいるんですね」
「小人と違って、基本的に人間の前には姿を見せないからな」
「ああ……。ただ、それにしてもですね。コロポックルなら、あんなに大きくないのではないですか?」
「そこは謎だな。本物であるにしろそうでないにしろ、調べてみる価値はありそうだ。エネルギーの感じられた方向にいたことも気になるし、何より、女という生き物は男にはない力を持っている」
カナラスは悪どい顔つきになり、口角を上げた。
「わが国の貴重な資源生産に近づけるかもしれん」
「所長、調べるって言ってもどうするんですか?」
「相手は民間人じゃない。その場から居なくなっても世間での事件にはならない。捕まえろ」
レティは夕方に目覚めた。ゆっくりと食事を終えて風呂に向かったら、湯船でユーシュテとばったり会った。
昼間のことを謝られ、悪気がなかったのだから良いとレティは頭を振った。
それから二人で出て、食堂に寄って飲み物を手に甲板へ出た。
レティは船縁に頬杖をつき、ユーシュテはレティの肩から空を見上げた。
「今日は満月だね」
「そうね」
「月を見ると、何でかユリウス様を思い出すなぁ」
容姿や言動は太陽のイメージのはずなのだが、この間助けてもらった時、雪狼と現れたバックに満月があったからだろうか。
「止めてよ。他の船の男なんか。そうやって天然でたぶらかしてんの?」
「へ?……あ、いたっ」
首を傾げたら、ユーシュテが横から頬を小さな両手で引っ張った。
「レティは、リチャードのことだけ考えてたら良いの」
「私、リック様のことでいつもいっぱいだよ。ただユリウス様はリック様の大切なご友人だし、セリオくんはそのユリウス様の仲間だし。だから私にとっても大切っていうか……」
「分かってる。分かってるけどぉ。そうじゃなくて!……ああ、もう!こう言うとき、何て言えばいいの!?」
ユーシュテが船縁にピョンと飛び降り、もどかしい思いで片足でドンドンと蹴る。
二人でそんな他愛ない会話をしていたときだった。
「……」
持っていた飲み物を一口飲み、そしてレティがふと視線を巡らせ始めた。
「何?」
「ユースちゃん、何か聞こえない?」
「え?」
いくら月が明るく船には上から照らす灯りが点いていると言っても、少し離れれば海も空も真っ黒で何も見えない。
――サッ……バサッ……
やっとユーシュテが妙な音を聞きつけたとき、既に遅かった。
「確かに鳥が羽ばたくような音がするけど、でも今は夜……」
――ヒュッッ!!!レティの目の前を、猛スピードで飛んできた鳥が掠めた。
「え?」
二人の声が重なる。カモメのようなそれが、いきなりユーシュテの背後から肩に爪を立てて掴んだからだ。




