天使の鱗片と決意7
リック様……。
リック様、笑わないで下さいね。
私、追い詰められたら、心の中に貴方を想ったんです。
そうしたらリック様の声を聞いたんです。
どうしてなんでしょう?
あの日から、貴方を想うと胸が切なくて苦しくて痛むけど、でも甘酸っぱいイチゴのような……。
そんな気持ちになるんです。こんな気持ち、初めてでどう対処したらいいのかわかりません。
海で死ぬなら怖くない。けど、貴方ともう一度お話がしたかった。
お返事も伝えてない。
死ぬ間際かもしれないのに、心が貴方で一杯なんです。
また、貴方の声が、私を呼ぶ声が聞こえます――。
レティは目を開けた。何故か透き通った金に染まる景色のその向こうに……。
(リック様の幻が……)
海に落ちたあとどうなるとか、この際どうでもいいことだ。
レティは両手を伸ばして微笑んだ。
嬉しくて嬉しくて涙が溢れ、宙に散る。
膜は依然そのままに、背中に透き通る金の羽根で出来た翼が出てきた。
「レティッ!」
「!」
パシッ!追い付いたリックの手がレティに届く。手首を掴まれた感触に、目を見開いた。
直後、腰に手を回されてしっかりと抱き込まれた。
「リ、……リック様?」
「まだ……答えを聞いてない」
少し短い呼吸の合間に話す声が、耳の側で聞こえる。
「答える前に、勝手に……っ、死ぬな」
(夢じゃない……)
「はい、はい……っ」
レティは泣きながら頷いた。
頭を振って涙を払い、見えやすくなったリックの向こうを見て息を呑む。
岬に自分を追いかけていた男が集まって、その一人が此方を睨みつけ、銃口を向けていた。
狙いはリックだ。
今度は閃光の銃などではないだろう。そして今の二人の状態に抗う術はない。
「リック様っ」
レティは咄嗟に体を反転させ、リックを自分の下にした。同時にパァンという銃声が海に伝う。
「ああっ」
銃弾がレティの羽根に当たって貫かれる。そのまま弾は海に飛び込んだ。
「レティ!」
今度はリックが驚く番で、レティの透き通る金の羽根が壊された破片のように散りながら消え、翼はなくなってしまった。
「大丈夫です。何ともないですから」
リックを安心させるように、笑って見せる。
「けど……落ちてしまいます」
「泳げるか?」
「頑張ります」
そのまま二人は海へと突っ込んだ。




