謎めいた力2
風に靡く髪を片手で押さえて景色を見ていたら、突如強い風が吹き、ユーシュテの高い声が聞こえた。
「わぁ――っ!」
レティは肩を竦めたすぐ後、振り返る。すると、目の前に白い景色が広がった。何処かで見たことのある光景。
「わぷっ!」
「レティ!」
湿ったシーツが体を覆い、レティは腕を上下にばたつかせた。
「ごめん、レティ!じっとしてて!」
けれど焦った気持ちがシーツを外そうとしてしまい、そして体が斜めになる。
手すりにいたことを忘れていた。そこに腰をぶつけたと思ったら、その向こうに飛び出してしまった。
「わきゃ――!」
走ってきたユーシュテが間一髪で手を掴む。
「バカ!大人しくしときなさいって言ったでしょ……っ!」
「ごめんなさい……。ユースちゃん、危ないよ」
「それならあんたも同じ!――うぐぐっ」
「レティアーナちゃん!ユーシュテさん!」
クルーが駆けつけてきて、ユーシュテの腰をつかんだ。
悪気はなかったのだが、それがまずかったらしい。
「ちょっと!擽ったいっっ!――って、きゃぁ――っ!!!」
反射的に身を捩ってしまい、おまけに力が抜けてレティの方に引っ張られた。
クルーの手からユーシュテが抜け、二人一緒に上から落ちた。
船内を歩いていたリックとディノスが、ユーシュテの悲鳴をたまたま聞いて、甲板に飛び出してくる。
「!」
シーツに絡まれたまま落ちるレティが、その上から同じく落下するユーシュテを見て、手を伸ばす。
(ユースちゃん……!ユースちゃんが危ないっ!)
レティの体が光った。金の波が溢れ出て、自分とユーシュテを透ける金色の球体が包む。二人の落下速度が急激に遅くなった。
「レティ!」
「ユース!」
お陰でリックとディノスが間に合い、レティとユーシュテをそれぞれ抱き止めた。
生憎リックの方は一緒にシーツを被ってしまったが……。
「ユース、平気か?」
「あたしは平気!それよかレティが……!」
ユーシュテはすぐにディノスから降り、リックとレティの元へ走った。
「レティ!」
「大丈夫だ」
リックがシーツからレティの上半身を出した。レティは寝ている。
「固定する前のシーツが風に飛ばされて、この子にかかったの。驚いて暴れたから落ちて……。ごめんね、レティ。でも、あんたのお陰でケガせずに助かった」
ディノスはユーシュテの肩に手を置いた。
「レティなら分かってるだろ。ユーシュテを責めたりしないさ」
リックはレティを抱え直し、シーツをユーシュテに返した。それからレティをベッドに寝かせるために、船内へと入った。
リックの後をディノスが追う。
「リック!」
「レティを寝かせたらすぐ戻る」
「そうじゃない」
肩を掴まれたので、リックは足を止めた。
「レティアーナのことだ」
「?」
「お前も薄々感づいているだろう。レティアーナに力を使わせるな。力については何なのか良く分からん。だが彼女の力が出た後に、最近は起きていられなくなっている。今はただでさえ、弱っている体だ。あれは負担が大きいのかもしれん」
「――確かに……そうかもな。意識してコントロールしているわけではなさそうだから、何らか方法を考えてみよう」
リックは頷いた。




