謎めいた力
【秘められた力の章】
キミですら知らない謎の力
歌も光も
何故キミに宿る?
誰も持たないただ唯一のキミの一部
もっと知りたいキミのこと。
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「ふぅー」
レティはスプーンをテーブルに戻した。
「食べきりました!」
他のクルーも仕事に戻り、食堂に残っているのはリックとユーシュテだけになってしまっている。
お腹はもういっぱい。でもあと一口、あと一口と頑張って、いつぶりか分からない完食を遂げたのだ。
「レティ!頑張ったわね!」
「良くやった」
ユーシュテは手を叩き、リックは頭を撫でてくれる。
声を聞き付けて厨房から出てきたジャンは少し大袈裟で、涙ぐんでいた。大きいハンカチを取り出して、目元を拭いた。
「お嬢ちゃん、ついに……」
「ジャン様のサポートのお陰です」
ただご飯を食べきるというそれだけが、こんなに嬉しいことだなんて知らなかった。縮んでしまった胃を正常に戻すため、食べる訓練と大嫌いな点滴の毎日。
それでも以前のように動けず、立ちくらみやすぐに疲れることが多かった。けれどそれも徐々に減ってきたし、きちんと食べられるこれからは、そんな心配は段々無くなっていくのだろう。
「あたしの食欲を少し分けてあげたいくらいだわ。そしたら、おっぱいも大きくなるでしょうし」
「食欲がないわけじゃないんだよ、ユースちゃん。食べたくても入らなかったの」
「つーか、言葉を慎め。男の前であからさまなことを言うな」
「いーじゃない。本当のことだもの。あんただって、ちっぱいじゃなくなって大きなおっぱいになったら、それはそれで嬉しいんでしょ」
「ちっぱいって言うな!俺はレティのなら何でも良い。今の手のひらにすっぽり収まるのも可愛いだろ」
リックとテーブルに立ったユーシュテの間に火花が散る。
そこからレティが小さな声で口を挟んだ。
「あ、あの……。リック様、恥ずかしいです」
真っ赤になった顔が下を向き、膝の上の手を見つめている。
「……悪い」
リックは項垂れ、テーブルに額をつけた。いつも、レティのことで冷静さを失うなとディノスから再三言われているのに、また熱くなってしまった。
その様子を見たユーシュテがクスクスと笑い、リックが顔をあげて体を掴もうと手を伸ばしたが、バックステップで避けられてしまった。
「もう少し経ったら、お嬢ちゃんのおやつも用意して良くなりそうだな」
「はい。ありがとうございます」
ジャンはレティの頭をポンポンと叩き、厨房に戻った。
おやつが無かったのは量を食べられないからで、それまでユーシュテのをたまに一口貰うくらいだったからだ。
その後、リックはクルーに呼び出されてレティと別れた。
「そろそろ洗濯の時間ね」
「私もお手伝いする」
「無理しないのよ。まだ本調子じゃないんだから」
「はーい」
手のひらにユーシュテを乗せ、レティは外に出た。
予想に違わず、洗濯物を山盛りにした大きな籠を抱え、仲間が数人出てきた。
ユーシュテはレティの手から飛び降りて一回転して大きくなり、物干しスペースへの階段を掛け上がる。レティもその後に続いた。
「あれっ、レティアーナちゃん」
「今日からまた、お手伝いします」
「ありがとう!けど、無理しないで良いからな」
レティに気づいたクルーは、優しく声を掛けてくれたり肩を叩いてくれた。
無理しないという忠告に従い、洗濯籠から小物を選んで洗濯ばさみに止めていった。
それがなくなる頃に手を止めて手すりの側に行き、上から見る久々の景色に見入った。
ここから広がる海と空、それぞれ違う青の織り成す景色が大好きだ。




