再逢~again~4
昼下がり、ユーシュテに頼んで着替えさせたレティを抱え、ジャケットに包んで船を降りた。
そう言えばいつかも、こうして寝たままの彼女を連れて移動したことがあったと思い出す。
「ちょっと散歩しような」
リックに寄りかかって眠るレティに囁き、頭にキスを落とした。賑わう街とは別に、船から見えていたなだらかな丘へとゆっくり歩く。
真上からきつい光を落とす太陽を重なりあった木々がいい具合に隠してくれて、過ごしやすい気温になっていた。
歩く二人の上を、時折小鳥やリスがチョロチョロと移動する。
「!」
丘の上について、リックは足を止めた。
「これは見事だな」
低い草が地面を生い茂り、その間所々にピンクや黄色の花が咲いている。風に揺られるそれらの向こうに、海が広がっている。
リックは腰を下ろした。レティを膝に座らせて、偶然が見つけた景色を見つめる。
「良い景色だぞ。レティの好きそうなところだ」
風にアプリコットブラウンの髪が揺られる。顔にかかったそれをリックが指先で払う。
(波の……音……?)
いつもと違う雰囲気を肌で感じたレティ。
「う……んん」
小さな声が聞こえ、レティの髪に手櫛を通していたリックの動きが止まった。肌に影を作っていた長い睫毛が震える。
ついに藍色の瞳がゆっくりと姿を現した。
深い青に、薄い空の色が映る。それから側の存在に気がついた。
「リック様。……も、平気です……か?」
鈴の鳴るような清らかな声。長い眠りから覚めたばかりだと言うのに、先にリックのことを気にかけてくれる。
「おはよう、レティ。俺はレティに救われた。もう、離れる心配はない」
「そ……、ですか。良かったです」
ふわりと優しい笑顔がリックに向けられた。
胸を締め付ける、あの切なく甘い痺れのような感覚がリックに広がる。
「やっとまた……逢えた」
頭と背中に手を回し、レティを抱きしめた。レティも彼の肩で頷く。
「はい」
「ずっとレティと話したかった。触れたかった」
腕にこもるのが力一杯なのは、それだけ切なかった証拠。寂しかった証。
暫く静かに抱き合って、そして力を緩めてレティと向き合った。
「私もです。リック様。リック様と同じ気持ちです」
また少しの笑みを見せるレティの髪を耳に流し、額をくっつけた。
「キスしたい、レティ」
「はい」
藍の目がゆっくりと閉じられた。まだ目が覚めたばかりの彼女だから、重ねたり離したりと軽いものだけを繰り返した。
心が満たされていく。
レティが途中で目を開けたらちょうどリックもそうしたところで、二人で笑いあった。




