天使の鱗片と決意6
リックが昨日のように街から離れた緩やかな坂道を登ってからいくらもたたないうちに、大きな声が聞こえてきた。
「探せぇ!」
「何処だぁあ――」
(捕まってないようだが、まずいな)
気配がバラバラに散っている。
ざっくりした方向はわかるので全員を倒していってもいいが、それだとレティを見つけるのが遅れてしまうし、迷ったら尚更状況が悪い。
(あの子を探すのが先決だな)
リックは走るスピードを上げた。途中で出会ってしまった輩だけを倒して行く。
酒場に来た人数の倍くらいあった気配が、探し回るうちに半分程に減った。
レティの悲鳴が全く聞こえないのはまだ捕らえられていない証拠であるが、同時に声からの距離を読み取れないので気配からの方向のみが頼りだ。
(あっちか)
人数が落ちたお陰で、レティの気配が掴めた。
(しかしこの方向は確か……)
走れば、昨日猫を追った道になる。
(やっぱり)
岬が見え、同時に男一人の背中と向こうに誰かが見える。
「レテ……」
名を呼ぼうとしたら、男がレティに銃を突きつけた。
距離的に自分の位置から走っても引き金を引いたら助けが間に合わないし、レティの足元は落ちる間際になっている。
下手に動いて男とレティのどちらを刺激しても危ない。
(どうする)
考えが纏まるより早く、銃口は空に向いて閃光が出た。
そして驚いた。レティがその後に自ら男を振り切り、岬の外へと体を投げ出したからだ。
「レティ!」
「!」
リックの声に気がついた男が、こちらを振り返る。
地面を蹴り、瞬間移動のような瞬発力で男を倒した。倒れて呻く男の上に膝を着き、岬の下を覗いた。
レティが落ちている。リックに迷いはなかった。
中腰の体勢から弾みをつけ、リックも岬から海へと向かって飛び込むように降りた。
例え海に落ちる前に、あの手を掴むことが出来なかったとしても……。
(やりたいことがあると言った。叶えないうちに死なせてたまるか!)
深紅のロングジャケットが空に舞った。
下からの空気に圧迫されて息が苦しい。リックの眉が寄る。
だが。レティの姿だけは目から外さない。
そのまま落ちるかと思っていたのに、途中でレティの体に変化が起きた。
華奢な体を光の波が通った気がした。
(何だ?)
そう思ったら、光の球体がレティを守るように包んだ。落下速度が落ちる。
この状況なら手が届くかもしれない。そう思ってリックは叫んだ。
「レティ――っっっ!」
(目を開けろ、生きたいと願え。諦めるな!死ぬんじゃない!)




