表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/451

そして記憶の波へ8

動いているのかわからないくらい僅かに瞬きをした後、焦点の合わないような瞳が今度ははっきりと姿を見せた。

疲労感が溢れ出て、瞳にいつものキラキラした輝きはない。それでも。


「ユリ……ス様……。セリオく……。私……」

「レティアーナ、ここは現実ですよ。わかりますか?」


認識はできるらしくて、掠れた声や頷きを出す。

サラは驚いたような目でレティを見ていたが、やがて瞳に涙を溜めた。


(私はまた、同じ過ちを犯すのかと思った)


震えるサラの前で、レティの胸が真っ白な丸い光を灯す。


「サラ様、これで……良い……ですか?」


そこから透き通った金の花が現れた。ガラス細工を思わせる綺麗なその花は、中心に丸い実をつけている。


「レティアーナさん、良く戻ってきてくれました。もう大丈夫です」

「はい……」


サラの判断にレティが表情を緩め、そして意識を手放して眠りについた。


「急いでこの花の実を届けましょう。これで呪いは浄化できるはずです」


サラは手を前に出して杖を呼び出し、構えた。


「どうするんだ?」

「私の力で、目的地へ一気に飛びます。レティアーナさんをこちらへ。二人は目的地を思い浮かべてください」


指示に従い、セリオは大人の姿になってレティを抱き上げた。

ユリウスとセリオが近くに来ると、サラは杖を上に掲げた。

先からキラキラと白い光が溢れ、それを浴びた四人はサラの家から姿を消したのだった。







レティの金の波を浴びたせいか、リックの自我は保たれたままだった。だが依然として熱が高い。


「う……」


氷水に浸したタオルを絞り、丁寧に畳んでユーシュテがリックの額に乗せる。


「しっかり、リチャード……。レティも頑張ってる」


リックがうっすらと目を開け、ユーシュテのぼんやりとした姿を目にした。その手首に触れる。


「レティ……」

「違うわ。レティは外よ」


リックの腕を布団の中に入れ、ユーシュテは静かに答えた。

ソファで本を読んでいたディノスが、ふと顔を上げる。


「レティアーナ?」

「え?」


ユーシュテはディノスの方を向いた。ディノスも本を置いて立ち上がる。

静かな部屋には、リックの呻きと苦しそうな息づかいだけ。


「まだ帰ってきてないと思うけど」

「いや」


ユーシュテの言葉を否定した。そして上を見上げる。ディノスの視線の先が、蜃気楼のように揺れ動く。


「な、何!?」


そこからいきなりぼんやりとしたシルエットが現れ、サラ、ユリウス、レティを抱えたセリオが出てきた。


「わーっ!」


サラとユリウスは着地できたが、レティを抱えていたセリオがうまく行かずに、ユリウスの背中に落ちた。


「すいません、マスター」

「いいから早く降りろ。二人乗っかると流石に重い……っ」


下敷きになり、俯せで呻くようにユリウスは言った。


「レティ!」


ユーシュテが気づいて駆け寄る。


「大丈夫です。今は寝てるだけですから」

「良かった……」

「コラ、セリオっ!先に降りろっつってんだろっ!」


自分の上で説明をするセリオを睨み付け、ユリウスが怒った。


「セリオさん、レティアーナさんの持ち帰ったものを」

「はい」


サラに頷き、セリオはユリウスから降りてレティをリックの元に連れていった。


「貴方を救いたいがために、命がけでレティアーナが掴んだものです。リチャード・ローレンス」


レティの胸に咲いた煌めく花。


「彼に花の実を食べさせてください。柔らかいので、喉に詰まらせることもないと思います」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ