そして記憶の波へ6
そこまで言って、レティはハッとした。
(『あの人』――?私は誰かのことを忘れてる!?)
思い出そうとするのに、上手くいかない。意識しなかったさっきは、何かが頭の中に出かけたというのに。
眉を寄せて考えていたら、金のレティが剣を払った。のんびりと忘れた何かに集中している場合ではない。
『私は許さない。この男を。私を蔑む島の人を。全部消さないと、思い出す度に私がいつまでも汚される』
そう言って、再び剣が構えられる。その言葉を聞き、レティは理解した。
(分かったわ。許せないのは)
体を捻って養父の肩書きを背負った悪魔を全身の力を込めて押し退け、立ち上がった。しつこい男は足に縋り付いてくる。
(本当に許せないのは、そんな経験を背負った私自身だったのよ)
「自分を消したいなんて言わないで!辛くて悲しくて重たいけど、でもそれも含めて私なの。そう言うのを持った私でも、ありのままを愛してくれる人がいるの!」
『それは誰?』
レティは、もう一人の自分の剣を掴む手に触れた。震えている。
「その方は、いつも私の前に立って剣で守ってくれた」
優しくも、時には激しく吹き荒れる風と共に見せる背中。
「まるで全てを情熱で焼き尽くすような、赤いロングジャケットを羽織って。私はその色が好き」
(私、その方が大好きだったのよ)
「声が好き。存在が好き。そして、その方の愛してくれた私が好きになれた」
レティは自分の胸に両手を重ねた。
「もう、自分で自分を蔑まなくてもいいの」
『貴女ってバカね。それでも記憶が消せるわけでもないのに』
金のレティは剣を下ろす。それを見て、笑顔になる。
「うん。そうなの」
『いいわ。今回は貴女の言う通りにしてあげる。私を暴走させたくなければ、自分で私をとどめておきなさい』
ピシッ!金のオーラや鎧に亀裂が入り、砕け散る。光の粉のように散った中から、ボロボロの服を纏った幼いレティが現れた。
幼い彼女は声も出さずに泣いていた。
虚ろな瞳をした幼い自分を、膝をついて優しく抱いた。
「もう大丈夫。リック様やおじ様がいるから。リック様と二人で、同じ時間を生きていくって決めたの。だから昔の私を拒まないわ」
「……うん」
小さな自分が涙を流して頷き、今のレティに吸い込まれるように消えてなくなった。
レティを苦しめていた景色も薄れ始める。
(思い出した。私はリック様を助けたいの。今までの時間の中から、助ける薬を探さないといけない)
立ち上がり、上を向く。じわじわと消えていく景色の向こうに青い空が広がる。新たな景色が現れ始めている。
空の下には穏やかに波打つ海。レティは岬の先端に立っていた。
(ここは)
随分と時間が進んだようだ。この岬はいつも歌を歌っていた場所。そして自分を追い詰めた男たちから逃げるために、身を投げた。
そんなレティをリックは追いかけてくれたのだ。
岬に手と足をついて、下を覗いた。
「!」
前に岬から海へ落ちたのはレティだったが、今度はリックが落ちている。
「リック様!!」




