そして記憶の波へ
生憎ベッドが一つしかなかったため、レティはサラとベッドに入り、ユリウスとセリオはテーブルに伏せて眠った。
翌日の朝、目玉焼きとパンと飲み物で朝食を済ませ、サラは準備に取りかかった。
「本当は外でやれたら良いのだけど……。安全じゃないから」
ユリウスとセリオに頼んでテーブルをと椅子を別の部屋に移動させ、ベッドを部屋の中心に持ってきた。
レティをベッドに座らせてからサラは戸棚の鍵を開け、小箱を持ってきてその中から細長く緑色の粒を取り出す。
「命を助けるには、生命力から作り出した強力なパワーが何よりも効くわ。これはその種」
「種!?まさかそれを育てるのか?」
「ええ」
ユリウスの疑問にサラは頷く。
「この種は土に埋めても芽を出しません。でも、人の体内で力を得れば成長するわ。そして花が咲いて実が熟す速度は人によりけり」
「その種を飲むと言うことですね……」
レティに向かって、サラは再び頷いた。
「そうです。ここからは文献の話になりますが――。中で芽を出したら、飲んだ人は眠りにつきます。そして幻影を見るそうです。数少ない成功した事例では、自分の今まで過ごしてきた時間を繰り返すそうです。その繰り返しの時間のどこかで、この種の花を見つけられたら……実が成ると」
「見つけられなかった場合、植物が力を吸い付くして取り込まれ、自分がその植物そのものになってしまうということですか。かなりエグいですね」
昨日のサラの話から失敗した結果を理解したセリオが、苦虫を噛んだような顔つきになった。
「大丈夫か?怖いならやめてもいいんだぞ」
ユリウスは言ってくれたが、レティは頭を振った。
「いいえ、やります。ユリウス様、心配して頂いてありがとうございます。怖いけど、でも、リック様と離れる方がもっと怖いから……」
「お二人は、彼女の側で見守っててあげてください」
水の入った透明なグラスと種が手渡された。
「ユリウス様、セリオくん、行ってきます」
躊躇しないように、サラから受け取ったものをレティは素早く流し込む。
グラスを返し、そして直ぐに眠気が体を襲ってきた。
(早い……!)
何日も寝ていない体が限界を迎えて眠りにつく。そう言うような抗えない強い睡魔によって、レティはベッドに倒れてすぐに深く眠りの世界へ飛び込んでいった。
「レティアーナ……」
セリオが心配そうにレティを見て、布団を引き上げる。ユリウスは腕を組んでその後ろに立った。
「戦闘の力は無いが、芯はしなやかに強い奴だ。俺たちはレティを信じよう」
「はい、マスター」
長い時間が始まった。
(誰かの声が聞こえる……)
波に漂うような感覚の中で、レティはぼんやり思った。
『この子を、この子を守らなきゃ』
興奮した女性の声のようだ。
『どうして。――かもしれないって言う疑いだけで、命を狙われなければならないの!?この子は何もおかしくない。普通の女の子よ』
(何かもしれない?大事なところが聞こえなかった……)
それきり女性の声は途切れてしまった。
暫くして、音が耳に入ってくる。
(これは波の音……?)
レティは目を開けた。




